Shooting☆Star

☆9話☆

3ヵ月の期間に及ぶツアーが終わり、それぞれが日常の仕事に戻り始めた。
ラジオ以外では久しぶりにメンバー全員が揃う仕事の為、TV局のスタジオに向かう。
今日の収録はトークメインの音楽バラエティ番組である。
それは、“もっさん”こと宮本隆治と“カイちゃん”こと甲斐慎之介という、二人の芸人ホストがアーティストをゲストに呼び、ぶっちゃけトークをすることで人気の長寿番組だった。
裏では、若手はここで業界の理不尽を知り、ベテランはここでプライドをへし折られる……と、囁やかれている。
宮本さんも甲斐さんも、百香が物心ついた時には既にお茶の間の人気物だった。
「お、モモちゃんじゃーん!久しぶり。」
「お久しぶりです。今日はよろしくお願いします。」
スタジオの裏。
楽屋の並ぶ廊下で会った二人に、百香は頭をさげた。
「S☆Sがゲストなのは去年振りだよね。今日は楽しみだ。後で楽屋行こうかなー?」
そう言って宮本さんは笑いながら楽屋に入る。
甲斐さんが小さな声で「よろしくね。」と言って後を追っていった。


収録の出だしは快調だった。
台本通りに、来月から始まるドラマの告知だとか、春にリリースしたアルバムの売り上げが好調だとか、20代の頃と違って最近はツアーの後半が辛いだとか、そういうトークが繰り広げられる。
「そういえば、君達。ツアー中に載っちゃったアレ、なんなの?」
思い出したように宮本さんがダイチと祐樹に話を振る。
セットの脇に控えて収録を眺めていた百香は思わず、手に持っていたファイルを落としそうになった。台本に箇条書きされた話題の中には、当然その内容は無い。
編集するとしても番組後半。散々喋り倒して、このタイミングで来るのか……。
「いやもう、何?って、こっちが訊きたいですよ。」
ダイチの言い分としては「オフに俺が誰とどこで遊ぼうと関係ないでしょ?」ということだ。
「まあ、確かにね」と、甲斐さんは同意の姿勢を見せて「で、祐樹くんはどうなの?あれ、マネージャーでしょ?」と、身も蓋もないことを言いながら祐樹をみる。
「オレっすか!?」
「どうなの?マネージャー。モモちゃんだっけ?いい子だよね。いつもニコニコしててさ。仕事出来る子だよね。うちのマネージャーと交換したいくらい。」
そう言って笑う甲斐さんに、宮本さんが焦れて祐樹に絡む。
「って言うか祐樹はさぁ、今迄、女の子とかどうでもいいって感じだったじゃん?それがさぁ、え、マネージャーが彼女とか?え、メンバーはどう思ってんの?」
「そもそも知りませんでした。」
秀が苦笑で答えると、残りのメンバーが頷く。
「なんで言わなかったの?」
問われて祐樹は困惑したように答える。
「いや、言えない。言えないっすよ。オレ、こんな感じじゃないすか。ほんと、女の子とか全然わかんない生き物だし。言っちゃって失敗したら嫌じゃないですか。」
「うんうん。で、それが、なんでこうなったの?告白はなんて?」
「え、それ言わなきゃダメっすか……?」
「聞きたい。もうね、これ、みんな聞きたいと思う。はい、聞きたいひとー!!」
観覧席に向かって「聞きたいひとー!」と問いかける宮本さんに、悲鳴とも歓声ともつかない声を上げて観客が盛り上がる。
「えー。この話いいでしょ。やめましょ?ツアーの話しましょ?」
「もうさ、ここからは、台本なし!本音で行こうぜ。俺、ツアーよりも君達の恋愛の方が気になるし。」
突然そう言って、遠くの床に向かって台本を投げ捨てた宮本さんは「モモちゃんいるでしょ。呼んで。モモちゃーん!!」と、セットの裏に向かって呼び掛けた。
甲斐さんが近くにいたADに「連れてきて」と、命じる。
観覧席がざわつくなか、ダイチは思わず立ち上がって「もっさん!やり過ぎっすよ!」と、宮本さんに詰めよる。
同時に立ち上がった祐樹は、甲斐さんによって素早く羽交い締めにされていた。
「勘弁してくださいよー!」祐樹はジタバタしながら叫ぶ。
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