Shooting☆Star
事務所の鍵を閉め、駅へと歩き出したところで、携帯電話が鳴るのに気付いた。
百香は慌てて鞄を開け、着信を確認する。
それは、ダイチからだった。
ダイチは20時過ぎに「帰る」と、言い残して事務所を出た。
日付けはとっくに変わっている。いくら明日が休みだと言っても、少し寄り道をしたところで既に帰宅している時間だろう。
何かあったのだろうか?
ざわざわする気持ちを押さえて「はい、」と携帯を耳に付ける。
「夜分遅くにすいません、ダイチさんが…」
想像外の、でも、よく聞き慣れた声に百香は慌てて片手を上げる。止まったタクシーに乗り込みながら、相手の声に被せるように「すぐに行きます。」と通話を切った。
繁華街の外れを過ぎたところでタクシーを降りて、雑居ビルの地下へと続く階段を駆け下りる。
暗い通路にそこだけ煌々と明かりが灯るドアを開けると、カウンターの席に突っ伏したダイチの後ろ姿が見えた。そう広くもない店に他に客は居ない。
百香は大きく息を吐いて呼吸を整え、ドアをくぐる。
振り返ったバーテンダーが近づいてきて、申し訳なさそうに「少々、飲ませすぎてしまったようで……」と百香に耳打ちした。
「マスター。伝票を、」と、彼に告げて、百香はダイチの隣に座りその背中をそっとさする。
顔を上げたダイチは、百香を見ると「俺、そんな飲んでないよ……」と、力なく笑う。
「うん。そうみたいね。」
表紙のついたホルダーに挟まれた伝票をちらりと見て、百香は溜息をついた。
確かに彼の言う通り、伝票に記載されたグラスの数は普段よりもずっと少ない。
ダイチは酷く酔っているわけでもなく、何故、自分が呼ばれたのか、さっぱりわからなかった。
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