Shooting☆Star

☆11話☆

交差点で信号待ちをしていた祐樹は、歩道を歩く人影に混ざって見慣れた後ろ姿がひとり、駅とは反対の方向にその角を曲がって行くのに気付いた。
慌てて左にウインカーを出し、その方角へと進路を変更する。
なかなか変わらない信号に焦れて、青信号になると同時に加速して曲がる。
歩道を歩く姿を探して、少し進むと公園の入り口でその背中を見つけた。
街灯に照らされた横顔はなんだかぼんやりとして見える。
ダイチと帰ったんじゃなかったのか……?そう思い、その影を通り越すようにして車を歩道に寄せ、窓を開けて呼び掛ける。
「モモ!」
顔をあげた彼女は、しかし、歩みを止めることはない。
祐樹は慌てて車を降り、百香の腕を掴んで引き止めた。
「モモ、どこ行くの!?」
「人違いだったら、どうするの?」
振り返った百香は呆れたように溜息をついて、祐樹を見上げる。
口調はいつもと変わらないが、百香のぼんやりとしたその表情に、祐樹は不安になる。
「その時は、ごめんなさいする。」
困惑した表情で律儀に答える祐樹に、百香は少し笑って、そのまま正面からぶつかるみたいに身体を預けてきた。
「あのね、私、ダイチと別れることにした。」
祐樹の胸に顔を埋めて、もそもそと喋る百香のくぐもった声に、祐樹は眉を顰める。
「モモ、なにがあったの?」
両手で鞄の持ち手を力いっぱい握り締める百香の細い指先が、手のひらに喰い込み白くなっているのが見える。
百香とダイチの間に何があったのかはわからないけど、百香がひどく傷付いているのはわかる。百香は平静を保とうとするが、堪え切れないほどに追い詰められて、それも上手くいっていない。
答えない百香に、祐樹は少し迷ってから、背中に手を回しそっと抱き締めた。
腕の中にすっぽりと収まる百香の身体は冷たかった。ただ、その顔だけが熱を帯びて、Tシャツ越しに祐樹の胸に体温を伝える。
公園前のこの道は人通りが少ないとはいえ、通る人が全くいないわけじゃない。
百香が落ち着くまでこうしていたいが、ここは目立ち過ぎる。
祐樹は慌てて車外に出たので、髪も顔も隠していない。
実際、道を歩く何人かは、早足で通り越しながら祐樹と百香を振り返る。
「……とりあえず、車、乗ろうか。」
その背中を撫でながら、片手で百香の握り締めたままの指先を解くようにして、鞄を受け取る。
「大丈夫。役に立たないかもしれないけど、オレ、側にいるから。だから、泣いてもいい。大丈夫だよ、モモ。」
百香は答えない。
ただ、祐樹の腕の中で、胸に顔を埋めたままの百香が、ぐっと声を飲み込む気配がした。
その肩が細く震える。
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