Shooting☆Star
確かに百香の言うとおり、婚約発表は話題にはなったが、仕事に大きな影響が出る程ではなかった。
発表前の根回しは完璧だったし、茉莉子の所属していた事務所も沈黙を守っていた。
百香との約束通り、茉莉子は事務所を移籍し、協力的なスポンサーより新たに頂いた数本の広告の撮影をこなし、そのまま休暇に入る予定だ。
茉莉子の誕生日を待って籍を入れる。
弘也にとっての想定外は、週刊誌のとある記事だった。

産婦人科の入り口で茉莉子の腰に手を回す自分の写真を見た時、弘也は、なによりも、百香に申し訳ないと思った。
百香は自分達の為に、ここまでしてくれたのに、これでは台無しじゃないか……。
ところが、百香はそれを見て「良かったじゃない。」と、言う。
「良かったじゃない。隠し事がひとつ減って。」
そう言って百香は笑って、驚く弘也を見上げる。
「よく撮れてる。ヒロの優しいところ、伝わる写真だね。みんな彼女のこと羨ましいって思うよ。きっと。理想の夫婦だよ。」
確かに、写真は良く撮れていて、そこに寄り添って並ぶ二人はとても幸せそうに見えた。
憶測だらけの記事も、目を通したところ、悪くは書かれていない。
仕事の合間に病院へ付き添い、家事を手伝い、彼女を支える。
まだ幼い妻を守る弘也の献身的な愛。
そういう解釈で書かれたその記事は、二人を否定するどころか、祝福さえしているようにも思える。
百香が「婚約だけでも」と発表を急かしたのは、きっとこういうことを見越してのことなんだろうと、弘也は気付いた。
もしかしたら、この写真は百香が撮らせたのかもしれないな……そう思ったが、それを確認したところで、きっと百香は黙って微笑むだけだろう。
茉莉子の妊娠は世間の知るところとなったが、お腹の目立ち始めた彼女の仕事の依頼は減ることもなかった。
それは、百香にとっても弘也や茉莉子にとっても、嬉しい誤算だった。
「マタニティー向けの商品の広告に、是非」という誘いがいくつか入り、休暇の間の生活費は困らない程度になる。
自分の意思で契約を結び、以前よりもずっと生き生きと過ごす茉莉子を見て、弘也は百香に感謝するばかりだった。
「今頃、あの脂ダヌキ、白目剥いて悔しがってるよ。」
そう言って百香は笑った。その横顔はいつもの優しい笑顔だった。
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