Shooting☆Star
へぇ…ユウくん、好きな人いたんだ。
SNSを開く。いくつかのキーワードで検索して、リスナーのリアクションを眺める。想像通りの結果が出てきて、百香は目を通すのをやめた。
祐樹の好きな人発言よりも、“ダイチのアレ”に対するコメントが断然多い。
やだな。なんだかもやもやする。
後ろでカシャンと扉が開く音がして、百香が振り返る。
「おつかれさま。どうしたの?こんな時間に。」
百香は立ち上がり、事務所の入り口に向かう。
すぐに大股で入ってきた祐樹に無言で肩を掴まれた。
祐樹の後ろで、事務所のドアが閉まる。
指先に力は入っていないし、その手付きは見た目よりもずっと優しいが、その体格差や腕力では逃げられないことは百香はよくわかっている。
「えっ…何?」
突然、肩を掴まれ、黙ったままの祐樹に百香は困惑した。
「何って…えっと…忘れもの取りに来たんだけど。」
答えた祐樹も困ったように眉間に皺をよせる。
カメラの前でなくてもいつもふざけている祐樹が、こんな顔をするのは珍しい。
「どうした?」
「どうって…?」
「…何かあったのか?モモ?」
祐樹の言葉に、百香は自分が泣いていたのに気づいた。
あまりの誤魔化せなさに、おとなしく返事をする。
「……や、うん。ちょっと。…ラジオ聴いてて。」
スピーカーから流れる番組はリクエストの曲が終わり、グダグダとしたトークが再開している。もう誰もダイチの話にも祐樹の話にも触れないが、相変わらずの恋愛の話。
「ラジオ…?先週録ったやつ?」
「うん。」
「それで何で、モモが泣くの…?」
「何でもいいじゃん。ユウくんには関係ないでしょ。」
ダイチにはもっとハッキリ否定して欲しかった。
そんなこと出来るわけないけど、でも、本当は百香と付き合っていることだって、隠して欲しくないと思う。そんなこと出来るわけないんだけど。
「オレらのラジオで泣くポイントないだろ…」
食い下がる祐樹に、百香は余計なことを口走ったことに気づく。
---やだな。頭回ってない。
沈黙が不安になって、何か言わなきゃ、と焦る。
祐樹の性格からして、多分、彼が納得するまで肩に置いた手を放してはもらえないだろう。
無理矢理払うことは出来るけど、この場からは逃げられないのだし。
「……ユウくん、好きな人いたんだね。」
話題を逸らそうとして、なんだか墓穴を掘っているような気分になる。
「私の知ってる人?」
答えはない。代わりに、祐樹の眉間の皺が一層深くなる。
肩を掴んだ指先に力が入るのがわかった。
「私、マネージャーなのに。15年も側にいて、ユウくんの好きな人、知らない。」
祐樹から視線を外して無理矢理に笑顔を作るが、それはすぐに失敗に終わった。
「それは…モモとオレが仕事の関係だからだろ。」
いくら側にいたって、どんなに仲良くたって、普段はお互いのプライベートに踏み込むような話はしない。一緒に過ごす時間が長いのは、そういう仕事だからだ。
「そうか……そうだね。」
暗い穴に突き落とされるみたいな気持ちになって、百香は俯く。
ベロア素材のパンプスの爪先に涙が落ちて水玉模様を作った。
ダイチはアイドルで百香はそのマネージャー。
仕事の関係…確かに、そう言われてしまえば、それまでだ。
「仕事の関係じゃ、恋愛しちゃ駄目なのかな…」
よく分かんねえんだけど…と、言いながら、祐樹は百香の肩を乱暴に放し、苛立ちを隠すこともせずに応接用のソファーへと座りこむ。
「そんなの、オレが訊きたいくらいだよ…」
百香は自分でも、何が言いたいのか、全く分からなかった。
ただ、いつものスキャンダルと同じようにダイチが受け流したのが寂しかった。
それだけだ。
無関係な祐樹に話せるわけでもなく、泣いていたわけを説明することも出来ない。
SNSを開く。いくつかのキーワードで検索して、リスナーのリアクションを眺める。想像通りの結果が出てきて、百香は目を通すのをやめた。
祐樹の好きな人発言よりも、“ダイチのアレ”に対するコメントが断然多い。
やだな。なんだかもやもやする。
後ろでカシャンと扉が開く音がして、百香が振り返る。
「おつかれさま。どうしたの?こんな時間に。」
百香は立ち上がり、事務所の入り口に向かう。
すぐに大股で入ってきた祐樹に無言で肩を掴まれた。
祐樹の後ろで、事務所のドアが閉まる。
指先に力は入っていないし、その手付きは見た目よりもずっと優しいが、その体格差や腕力では逃げられないことは百香はよくわかっている。
「えっ…何?」
突然、肩を掴まれ、黙ったままの祐樹に百香は困惑した。
「何って…えっと…忘れもの取りに来たんだけど。」
答えた祐樹も困ったように眉間に皺をよせる。
カメラの前でなくてもいつもふざけている祐樹が、こんな顔をするのは珍しい。
「どうした?」
「どうって…?」
「…何かあったのか?モモ?」
祐樹の言葉に、百香は自分が泣いていたのに気づいた。
あまりの誤魔化せなさに、おとなしく返事をする。
「……や、うん。ちょっと。…ラジオ聴いてて。」
スピーカーから流れる番組はリクエストの曲が終わり、グダグダとしたトークが再開している。もう誰もダイチの話にも祐樹の話にも触れないが、相変わらずの恋愛の話。
「ラジオ…?先週録ったやつ?」
「うん。」
「それで何で、モモが泣くの…?」
「何でもいいじゃん。ユウくんには関係ないでしょ。」
ダイチにはもっとハッキリ否定して欲しかった。
そんなこと出来るわけないけど、でも、本当は百香と付き合っていることだって、隠して欲しくないと思う。そんなこと出来るわけないんだけど。
「オレらのラジオで泣くポイントないだろ…」
食い下がる祐樹に、百香は余計なことを口走ったことに気づく。
---やだな。頭回ってない。
沈黙が不安になって、何か言わなきゃ、と焦る。
祐樹の性格からして、多分、彼が納得するまで肩に置いた手を放してはもらえないだろう。
無理矢理払うことは出来るけど、この場からは逃げられないのだし。
「……ユウくん、好きな人いたんだね。」
話題を逸らそうとして、なんだか墓穴を掘っているような気分になる。
「私の知ってる人?」
答えはない。代わりに、祐樹の眉間の皺が一層深くなる。
肩を掴んだ指先に力が入るのがわかった。
「私、マネージャーなのに。15年も側にいて、ユウくんの好きな人、知らない。」
祐樹から視線を外して無理矢理に笑顔を作るが、それはすぐに失敗に終わった。
「それは…モモとオレが仕事の関係だからだろ。」
いくら側にいたって、どんなに仲良くたって、普段はお互いのプライベートに踏み込むような話はしない。一緒に過ごす時間が長いのは、そういう仕事だからだ。
「そうか……そうだね。」
暗い穴に突き落とされるみたいな気持ちになって、百香は俯く。
ベロア素材のパンプスの爪先に涙が落ちて水玉模様を作った。
ダイチはアイドルで百香はそのマネージャー。
仕事の関係…確かに、そう言われてしまえば、それまでだ。
「仕事の関係じゃ、恋愛しちゃ駄目なのかな…」
よく分かんねえんだけど…と、言いながら、祐樹は百香の肩を乱暴に放し、苛立ちを隠すこともせずに応接用のソファーへと座りこむ。
「そんなの、オレが訊きたいくらいだよ…」
百香は自分でも、何が言いたいのか、全く分からなかった。
ただ、いつものスキャンダルと同じようにダイチが受け流したのが寂しかった。
それだけだ。
無関係な祐樹に話せるわけでもなく、泣いていたわけを説明することも出来ない。