Shooting☆Star
レッスン室の壁際にhappy birthday の文字の風船が浮かび、♡祐樹♡37♡と書かれたオレンジ色のモールがついた団扇を手にした拓巳が、床を転げまわっている。
祐樹は、それをスマホで動画を撮りながら追いかける。
秀が百香のカメラに気付いて手を振りながら近づいてくる。
「今日は、11月30日。祐樹のバースデイです。祐樹くん、37歳になりました。おめでとーう。」
まるで何かを中継するレポーターみたいに、カメラに向かってそう言った秀は、祐樹にクラッカーを向けて、いたずらな笑みを浮かべる。
その後ろから圭太がカメラを覗き込んだ。
「ユウ、おめでとう!イェイ!」
そう言って、両手にたくさんまとめて持ったクラッカーを一緒に構える。
秀と圭太は笑いながら床を転がる二人に向かってクラッカーを次々と打ち鳴らす。
カラフルなテープが宙に舞い、祐樹と拓巳に絡まる。
その様子を一通り動画に収めて振り返ると、百香と入れ違いで出て行ったダイチと弘也がレッスン室に戻って来たところだった。
弘也は、ポットにたっぷりのコーヒーを持ち、カップの入ったカゴを下げている。
「あーあー。片付け大変だろ、これ。」
クラッカーの残骸のカラフルなテープとキラキラと光る紙吹雪を、足で避けて道を作りながら、それでもその表情は楽しげだ。
ダイチがケーキをテーブルに置いて「百香、動画、いいの撮れたか?」と聞いてくる。
「うん。後で公式のSNSに上げるから見て。」
そう言ってスマホを振って見せると、ダイチは目を細めた。
眉間に薄く皺を寄せて、一瞬だけ目を瞑る。
「百香…」
「ん?…何?」
「ん…いや、何でもない。……おめでとう。」
何か言い掛けて、何でもない。そう言ったダイチは、少し考えて、それから、おめでとう、と言った。
一瞬、なんのことか分からず聞き返そうとして、ダイチが自分の手元をじっと見ているのに気付く。
同時に、スマホを持つ手の指輪を思い出した。
「うん。ありがとう。」
百香は、はにかんで笑顔になる。
後ろで祐樹のはしゃぐ声がする。
顔を上げたダイチの瞳に、祐樹が笑っている姿が映るのが見えた。
「あいつは、いいやつだよ。」
「…うん。知ってる。」
「だよなぁ…。」
百香も振り返って、祐樹を眺める。
「…なんか、思ってたより結構、悔しいかも。」
ダイチは自嘲するみたいに笑う。
隣に立つ百香の腰に手を回し、ぽんと軽く叩いて「でも、よかった。あいつで。」と、小さな声で付け加えた。
「おい、ユウ、ちょっと手見せろ!」
ダイチは、そのまま、駆け寄るみたいにして拓巳とじゃれ合う祐樹を捕まえに行く。
なんだよ!?と、抵抗する祐樹をダイチは担ぎ上げようとする。
レッスン室にわあわあと声が響く。
百香は足元に視線を落として、黒いパンプスのつま先を見る。
ダイチが腰を軽く叩くのは、きっと上手くいくように、というおまじないだ。
恋人の頃、互いによくそうしていたように。
これが最後のおまじないなのだ。
きっと上手くいくさ。
祐樹の笑い声が聞こえて、百香は顔を上げた。
目を離したその隙に、ダイチと祐樹の決着はついたらしい。
ダイチに馬乗りになって左手を高く上げる祐樹を見て、圭太が口笛を鳴らす。拓巳と秀がこちらを振り返って笑顔で何か囁き合う。
弘也が、並べたカップにポットのコーヒーを注ぎながら、野次を飛ばす。
本間さんは部屋の隅で壁に寄りかかって、静かにそれを眺めている。
テーブルの上のケーキやコーヒーを写真に収めてから、本間さんの横に並んで立ち、ふざけ合う6人を眺める。
「朝から元気ねぇ」そう言って笑う本間さんに、
「子供みたいよね。」と、百香も同意する。
時計を見上げた本間さんが「そろそろミーティング始めましょう」そう言って、手を叩いた。
いつもと少しだけ違う、いつもの一日が始まる。
祐樹は、それをスマホで動画を撮りながら追いかける。
秀が百香のカメラに気付いて手を振りながら近づいてくる。
「今日は、11月30日。祐樹のバースデイです。祐樹くん、37歳になりました。おめでとーう。」
まるで何かを中継するレポーターみたいに、カメラに向かってそう言った秀は、祐樹にクラッカーを向けて、いたずらな笑みを浮かべる。
その後ろから圭太がカメラを覗き込んだ。
「ユウ、おめでとう!イェイ!」
そう言って、両手にたくさんまとめて持ったクラッカーを一緒に構える。
秀と圭太は笑いながら床を転がる二人に向かってクラッカーを次々と打ち鳴らす。
カラフルなテープが宙に舞い、祐樹と拓巳に絡まる。
その様子を一通り動画に収めて振り返ると、百香と入れ違いで出て行ったダイチと弘也がレッスン室に戻って来たところだった。
弘也は、ポットにたっぷりのコーヒーを持ち、カップの入ったカゴを下げている。
「あーあー。片付け大変だろ、これ。」
クラッカーの残骸のカラフルなテープとキラキラと光る紙吹雪を、足で避けて道を作りながら、それでもその表情は楽しげだ。
ダイチがケーキをテーブルに置いて「百香、動画、いいの撮れたか?」と聞いてくる。
「うん。後で公式のSNSに上げるから見て。」
そう言ってスマホを振って見せると、ダイチは目を細めた。
眉間に薄く皺を寄せて、一瞬だけ目を瞑る。
「百香…」
「ん?…何?」
「ん…いや、何でもない。……おめでとう。」
何か言い掛けて、何でもない。そう言ったダイチは、少し考えて、それから、おめでとう、と言った。
一瞬、なんのことか分からず聞き返そうとして、ダイチが自分の手元をじっと見ているのに気付く。
同時に、スマホを持つ手の指輪を思い出した。
「うん。ありがとう。」
百香は、はにかんで笑顔になる。
後ろで祐樹のはしゃぐ声がする。
顔を上げたダイチの瞳に、祐樹が笑っている姿が映るのが見えた。
「あいつは、いいやつだよ。」
「…うん。知ってる。」
「だよなぁ…。」
百香も振り返って、祐樹を眺める。
「…なんか、思ってたより結構、悔しいかも。」
ダイチは自嘲するみたいに笑う。
隣に立つ百香の腰に手を回し、ぽんと軽く叩いて「でも、よかった。あいつで。」と、小さな声で付け加えた。
「おい、ユウ、ちょっと手見せろ!」
ダイチは、そのまま、駆け寄るみたいにして拓巳とじゃれ合う祐樹を捕まえに行く。
なんだよ!?と、抵抗する祐樹をダイチは担ぎ上げようとする。
レッスン室にわあわあと声が響く。
百香は足元に視線を落として、黒いパンプスのつま先を見る。
ダイチが腰を軽く叩くのは、きっと上手くいくように、というおまじないだ。
恋人の頃、互いによくそうしていたように。
これが最後のおまじないなのだ。
きっと上手くいくさ。
祐樹の笑い声が聞こえて、百香は顔を上げた。
目を離したその隙に、ダイチと祐樹の決着はついたらしい。
ダイチに馬乗りになって左手を高く上げる祐樹を見て、圭太が口笛を鳴らす。拓巳と秀がこちらを振り返って笑顔で何か囁き合う。
弘也が、並べたカップにポットのコーヒーを注ぎながら、野次を飛ばす。
本間さんは部屋の隅で壁に寄りかかって、静かにそれを眺めている。
テーブルの上のケーキやコーヒーを写真に収めてから、本間さんの横に並んで立ち、ふざけ合う6人を眺める。
「朝から元気ねぇ」そう言って笑う本間さんに、
「子供みたいよね。」と、百香も同意する。
時計を見上げた本間さんが「そろそろミーティング始めましょう」そう言って、手を叩いた。
いつもと少しだけ違う、いつもの一日が始まる。