Shooting☆Star
祐樹は自分の膝に肘を付き顔の前で組んだ指の隙間から、百香の足下を見つめる。
声を押し殺して泣く百香の、黒いパンプスのつま先に点々と涙が落ちる。

仕事の関係だったら、恋愛しちゃいけないのかな…
そう呟いた百香の声は、酷く寂しげだっだ。
なるほど、百香は誰かに恋をしているのだろう。
それも、仕事の関係の、ひとりで泣くしかないような相手に。
自分がいくら察しが悪くても、この状況でそれ以外の答えは無い。
問題は相手が誰かだ。
相手が事務所の関係者なら、既婚者でもない限り、それを隠す必要は無いだろう。
相手がタレントだとしたら……
「気付かなかったな…」
深い溜息と共に思わず口にしてしまってから、しまったな、と思った。

嫌な沈黙の間を埋めるように、ラジオからは数年前にヒットした恋愛ドラマの主題歌が流れている。S☆Sにしては珍しいバラード調の曲で、ダイチの切ない歌声に、祐樹と圭太の優しい歌声が絡む。
百香は黙ってラジオのスイッチをオフにすると、簡易キッチンのシンクでバサバサと顔を洗う。その背中はいつもよりも小さく、酷く儚く見えた。

「なあ…これは、オレのひとりごとなんだけど。」
唐突に。伝えなくては、と、思う。
今、伝えないと一生後悔するだろう。
「オレは…ずっとモモのことが好きなんだよ。」
シンクの縁に手をついて、俯いている百香の表情は見えない。
「でも、モモが誰を好きでも、オレはモモの味方でいるよ。」
ずっと見てるだけで良いと思っていた。
初めて会った日からずっと。
百香はマネージャーで、仕事だから祐樹のことを支えてくれるに過ぎない。
マネージャーが女性というだけで、熱心なS☆Sファンが百香に辛く当たることもあった。それでも百香は、いつも笑顔で祐樹達の側に居続けた。
出来るだけ側に居たくて、自分を見て笑って欲しくて。アイドルを辞めない限り、S☆Sでは誰よりも一番でいようと思っていた。
歌も、ダンスも。誰よりも百香に見て欲しかった。
だけど、気持ちを打ち明けるつもりもなかった。
なかったのに。
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