偶然でも運命でもない
19.願い
駅から神社への道は初詣の客で賑わっていた。
なるべく人通りの少ない道を選んで、近づいてきた大きな鳥居を見上げる。
視線を前に戻すと、小柄な男の子と手を繋いでいる大河が向こうからやって来るのが見えた。
「あ、大河くん!」
一緒に居るのは、友達だろうか?
歳は大河と同じくらいで、ふざける彼を大河は引っ張るようにして歩く。
きっと、彼が、先日言っていた“カイトくん”だ。
なんとなくそう思って、微笑ましい気持ちになる。
「あけまして、おめでとうございます。今年もよろしくお願いします。」
「あけましておめでとうございます。こちらこそ宜しくおねがいします。」
神妙な顔をしてお辞儀をした大河は、いつもの制服姿と違って、カジュアルな服装をしていた。
シンプルなパーカーにジーンズ。流行りのスニーカー。
「大河くん、私服だ。珍し。」
「響子さんだって。私服、初めて見たよ。」
何か言いたげな顔の大河の手を、隣に立った友人が引っ張る。
慌てて大河がその手を離すと、彼はこちらに手を差し出して握手を求めてきた。
「はじめまして、響子さん。大河がいつもお世話になっています。」
「はじめまして。もしかして、カイトくん?」
「そうです。武田海都です。」
「やっぱり!……よろしく。」
響子はその手を両手でとって微笑んで見せる。大河と違って、女の子慣れしていそうだ。ちょっとチャラいな。遊んでる系かな?
大河と会えたのは嬉しいが、彼が居るならあまりゆっくり立ち話はは出来ない。
「二人は、もうお詣り済んだ?」
お詣りがまだなら一緒に回りたいが、この様子なら、きっと彼等はもう帰るところだろう。
「うん。御守りも買ったし、甘酒いただいて、おみくじも引いた。」やりたいこと、全部やってる。
「初詣フルコースじゃん!」
響子がそう言うと、大河は嬉しそうに笑った。
「響子さんは?」
「これからお詣りして、その後、食事会。」
「食事会?」
「会社の。」
「仕事?大変だね。」
大河は心配そうな顔をしてこちらに視線を向ける。
「仕事関係なくて。仲良いのよ、うちの会社。」
「お酒、飲み過ぎないようにね。」
「ちょっとー。」
「だって、心配だし。」
食事会は毎年の恒例行事だ。仲の良い皆で料理を持ち寄って、響子の部屋ですることになっている。大河にそれを話すつもりはないが、当然お酒もたくさん用意していた。
「もっと他に心配することあるでしょ。」
「神社の中、人すごいんで、潰されないように気をつけてくださいね。」
その言葉に響子は、ふふふと笑って大河を見上げた。
素直な優しさは、とても大河らしい。
「それなの?まあ、いいけど。ありがとう。気をつけるね。」
バイバイ、またね。
手を振って大きな鳥居をくぐる。
私もフルコース、しちゃおうかな、一人で。
待ち合わせの前にこの神社へ来たのは正解だった。
大河に会いたいと思ったのは事実だ。
まさか本当に会えるとは思っていなかったけど。
新年だからと自分に言い訳をして、いつもよりも明るい色の流行りのリップも付けてみた。
発売日に買ったけど、結局付けずに置きっ放しにしていたピンクバーガンディの綺麗な色のリップ。
大河はこのリップに気付いただろうか……?
きっと、気づかないだろうな、と思い直して参道の砂利を踏みしめる。
今年も一年が、素敵な年になりますように。
大切な友人達が、幸福でありますように。
いつでも快く愉しく過ごせますように。
少しでもあの子と一緒に過ごせますように。
なるべく人通りの少ない道を選んで、近づいてきた大きな鳥居を見上げる。
視線を前に戻すと、小柄な男の子と手を繋いでいる大河が向こうからやって来るのが見えた。
「あ、大河くん!」
一緒に居るのは、友達だろうか?
歳は大河と同じくらいで、ふざける彼を大河は引っ張るようにして歩く。
きっと、彼が、先日言っていた“カイトくん”だ。
なんとなくそう思って、微笑ましい気持ちになる。
「あけまして、おめでとうございます。今年もよろしくお願いします。」
「あけましておめでとうございます。こちらこそ宜しくおねがいします。」
神妙な顔をしてお辞儀をした大河は、いつもの制服姿と違って、カジュアルな服装をしていた。
シンプルなパーカーにジーンズ。流行りのスニーカー。
「大河くん、私服だ。珍し。」
「響子さんだって。私服、初めて見たよ。」
何か言いたげな顔の大河の手を、隣に立った友人が引っ張る。
慌てて大河がその手を離すと、彼はこちらに手を差し出して握手を求めてきた。
「はじめまして、響子さん。大河がいつもお世話になっています。」
「はじめまして。もしかして、カイトくん?」
「そうです。武田海都です。」
「やっぱり!……よろしく。」
響子はその手を両手でとって微笑んで見せる。大河と違って、女の子慣れしていそうだ。ちょっとチャラいな。遊んでる系かな?
大河と会えたのは嬉しいが、彼が居るならあまりゆっくり立ち話はは出来ない。
「二人は、もうお詣り済んだ?」
お詣りがまだなら一緒に回りたいが、この様子なら、きっと彼等はもう帰るところだろう。
「うん。御守りも買ったし、甘酒いただいて、おみくじも引いた。」やりたいこと、全部やってる。
「初詣フルコースじゃん!」
響子がそう言うと、大河は嬉しそうに笑った。
「響子さんは?」
「これからお詣りして、その後、食事会。」
「食事会?」
「会社の。」
「仕事?大変だね。」
大河は心配そうな顔をしてこちらに視線を向ける。
「仕事関係なくて。仲良いのよ、うちの会社。」
「お酒、飲み過ぎないようにね。」
「ちょっとー。」
「だって、心配だし。」
食事会は毎年の恒例行事だ。仲の良い皆で料理を持ち寄って、響子の部屋ですることになっている。大河にそれを話すつもりはないが、当然お酒もたくさん用意していた。
「もっと他に心配することあるでしょ。」
「神社の中、人すごいんで、潰されないように気をつけてくださいね。」
その言葉に響子は、ふふふと笑って大河を見上げた。
素直な優しさは、とても大河らしい。
「それなの?まあ、いいけど。ありがとう。気をつけるね。」
バイバイ、またね。
手を振って大きな鳥居をくぐる。
私もフルコース、しちゃおうかな、一人で。
待ち合わせの前にこの神社へ来たのは正解だった。
大河に会いたいと思ったのは事実だ。
まさか本当に会えるとは思っていなかったけど。
新年だからと自分に言い訳をして、いつもよりも明るい色の流行りのリップも付けてみた。
発売日に買ったけど、結局付けずに置きっ放しにしていたピンクバーガンディの綺麗な色のリップ。
大河はこのリップに気付いただろうか……?
きっと、気づかないだろうな、と思い直して参道の砂利を踏みしめる。
今年も一年が、素敵な年になりますように。
大切な友人達が、幸福でありますように。
いつでも快く愉しく過ごせますように。
少しでもあの子と一緒に過ごせますように。