偶然でも運命でもない
47.プレゼント
「なあ、どんなのが似合うと思う?」
駅前の商業ビルの雑貨店。小さなピアスが並ぶ展示台の前で、キラキラと光るそれを大河はひとつづつゆっくりと眺める。
「自分で選べよ。俺が選んだら意味ないじゃん。」
「うん、そうだけど。」
バレンタインのお礼を言い訳にして、ホワイトデーに響子さんに何か贈り物を……そう思って、アクセサリーを見にきたが、イマイチぴんと来ない。
彼女はいつも、ピアスとネックレスを揃いにして3つくらいをローテーションしているようだった。指輪はどの指にも着けていない。
海都は隣で、髪留めのコーナーを見ている。
「シュシュって意外と値段するのな。」
「そう、それ、俺も思った。」
振り返って、同意すると、海都は笑って「いっそ、ペアリングにしたら?響子さんへのプレゼント」と、展示台の上でカゴに積まれたリボンと布の塊を眺めて手に取る。
「それじゃプロポーズみたいじゃん。そんなんじゃねぇよ。」
「冗談だよ。」
海都は珍しく真剣な顔をしてシュシュや髪留めをいくつか選び取り、レジに向かう。
「それぞれ別のラッピングを」と、店員に伝えるのが聞こえた。
「大河は?決めた?」
「うーん……やっぱやめ。」
「え。」
どんなものが好きなのか?
高校生の自分が小遣いで買えるようものを、大人の響子さんが喜んでくれるのだろうか……?
そもそも恋人でもないのに、アクセサリーなんて、迷惑じゃないだろうか…… ?
考え出したら、キリがないなと思う。
「残るものはやめよう。」
「今、残るもの買った俺にそれ言う?」
「海都のは、お姉さんとか叔母さんの分だろ?」
「うん。あと、片野の分も。」
「ああ、そうか、片野さん。」
大河は、ひと月前に片野の告白を断ったことを思い出す。
海都と片野は、あれからなんだか距離が近い。
何も言わないが、きっと海都は上手くやっているんだろうと思う。
「そもそも、残らないものって何だよ」
「ホワイトデーだし無難に、お菓子とか、消耗品。……あ。ハンドクリームとか。」
ふと、叔母がよく使っているハンドクリームを思い出す。
綺麗なラベルのついたアルミのチューブに入ったそれは、季節ごとに違う香りの新作が出る。
プレゼントとしては、多分、定番だろうけど。
響子のポーチには、叔母が使っているものと同じ店のものが入っていた。それなら、間違いなく貰っても困らないだろう。
「ハンドクリームいいじゃん。あれだろ、あのいい匂いする店の。」
「そうそう。」
「行こうぜ。俺も買い物あるし。あそこのシェービングクリーム好き。」
大河の思い付きに、海都は自分のことのように嬉しそうな顔をしていた。
「海都、剃るほど生えてなくね?」
「いや、鼻の下と顎の先だけ生えるんだよ。伸ばしてもダンディーな髭には程遠いけど。」
「俺も使ってみようかな。最近、濃くなった気がする。」
「黄色いのより、青い瓶のがお勧め。」
「何が違うの?」
「……匂い?」
「他にあるだろ?」
「あ。クリームとか泡の固さが違う。」
「それ、ほとんど全部じゃん?」
大河のツッコミに海都はアハハと笑って、それから真顔になった。
「大河、おまえ、なんか響子さんに似てきた。言い方とか。」
「そう?」
「もっと愛想無かっただろ。……まあ、いいけど。」
似てきた、と、そう言われて、大河は俯く。
響子さんに会えるのも、あとは数えるほどもない。
「プレゼントちゃんと渡せよ。あと、いい加減に連絡先も訊けよ。」
「それはいいよ、もう。」
「それ、一生後悔するだろ。」
「……どうかな。」
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