猫のアマテル
第三夜「潮」
異世界に紛れ込んだ三匹は空間の歪みを探し、小樽から祝津にかけて何度も何度も往復した。食以外の時間を空間の歪み探しについやした。
祝津のみんなと別れてひと月が過ぎた。
伝助が「のう、アマテル、他に方法はないのかなぁ」
「ええ、わたしも最近そのことを考えてます。 もっと効率のよい方法はないのかニャって?」
ハチが「ミミは本当にラッキーだったニャン」
アマテルは母親の顔を思い浮かべながら「本当だよね……」
いつものように手宮交差点を三匹が歩いていると突然雑居ビルの横から大きな黒い犬が出てきた。
「おい、こらっ。おまえら最近この辺を頻繁にうろついてるようだがいったいなんなんだ?」少し威圧的な態度だ。
伝助が「僕たちは祝津のものです。ある物を探してますワン」
「探し物? それはなんだ、言ってみろ?」
「いえ話すほどのものではありません」
「嘘いえ、お前ら三匹、毎日必死になって探してるのを俺は知ってるぞ言ってみろ。 言わねえと噛み殺すぞこらっ!」
アマテルが「歪みです。 空間の……」
「歪み? 空間の? おまえら俺を馬鹿にしてるのか? 噛み殺されたいかこらっ!」
ハチが「本当です。それ以外に表現のしようがないのです。……ミャ」
「とりあえずそこの三匹ちょっと俺に着いてこいや!」
ハチが恐る恐る聞いた「どこ行くんですか?」
「う~るせっ、つべこべ云わねぇで黙ってついてこい!」
三匹は渋々と犬のあとをついて歩いた。 五分ほどでショッピングセンター跡地に着いた。 突然物置小屋の上から声がした。
「おいクニオ、そいつらはなんだ?」威圧感のある黒いシェパード。
「頭、こいつら最近この界隈をうろついてるし、なんか訳ありみたいなんで連れてきました……ウスッ」
頭のトシユキは「おう、俺も何度かこいつら見かけてる。 おい、そこの雄犬どういう魂胆だ? 云ってみろワン」
伝助はアマテルとハチの顔を見た。 二匹は軽くうなずいた。
「はい、じつはですね……」今日までの経緯を淡々と話した。
「そ、そ、それってカゲロウみたいなユラユラした空気か?」
三匹は目を丸くして驚き「えっそれです。 知ってるんですか?」伝助が言った。
「おう、晴れた時の道路のゆらゆらみたいなやつだな」
アマテルが「はい、それです」
「今年に入ってから何度か見たぜ 。曇り空なのに空気がユラユラ変だなって思ってたけど……それのことか?」
伝助が「たぶん我々が探してるものかもしれません。 ワン」
クニオが「頭、もしかして坊ちゃんが消えたのと、なにか関係があるのかも知れませんね……」
「うん、俺も今おなじことを考えていた」
アマテルが「もし宜しければ事情を話してくれませんか?」
「ひと月前なんだが突然息子のゲンがいなくなり、ここら界隈の犬仲間や猫衆にも頼んで探し回ったんだが、見つからなかった」
クニオが「それから、姉さんが寝込んでしまったってわけだワン」
伝助が「たぶんおなじ現象かもしれません。 話の流れからすると別世界で生きていると思われます。 その歪みを一緒に探しましょうよ」
「おう、そういうことなら話は早い、クニオみんなに号令をかけてその歪みを探させろ。 そして見つけたら……どうするの? ワン」アマテルの顔を見た。
アマテルが「とりあえず事情を知ってる私たち三匹と、息子さんの顔を知ってるそちらの誰かが、向こうの空間に一緒に行くんです。 そして、その世界でユラユラを探し息子さんをこちらに連れ戻す」
トシユキが「おう、そういうことだ。 クニオお前が行け」
「えっ、わたしですか? 本当にこっちに戻れるんでしょうね?」
アマテルが「大丈夫です私たちも向こうからこちらへ来たのです。 すでにミミという仲間が先に戻ってますから、向こうの祝津でも事情は把握してるはずです。 必ず応援してくれます」
トシユキ親分の号令で数十匹の犬と猫がユラユラを探し回った。
そして三日が過ぎ、一匹の白犬がクニオの元に駆けつけた。
「頭、ユラユラだと思われるものを色内小学校上の神社で発見しました」
「おっ、そっか、でかした!」
横にいた子分のポチが「よかったですね親分」
「おう、すまねえがクニオと祝津の例の3匹を急いで探してきてくれ」
色内小学校の裏手にポチとクニオの二匹だけでやってきた。
トシユキは「ポチあいつらはどうした」
「見あたりませんでした。 とりあえずクニオさんだけお連れしました。 もう一度探してきます」
「そっか……行くな! 行かなくいい、ほうっておけ」
「えっ? だって頭……」
クニオが「馬鹿野郎、頭がそう言ってんだからそれでいいの、
黙ってハイって言えばいいのわかった?」
「あっ、はい……」
トシユキは「クニオわかってるな。必ず探しだして戻るんだぞ。 無事戻ったときにはへへッ、長橋方面の縄張りはお前に任す」
「あ、ありがとうございます」
「ポチお前も一緒に行け、頼んだぞ」
「ワン」
クニオとポチがユラユラに入っていった。
「クニオ兄さん、なんも変わりありませんね」
「ポチお前は馬鹿か、後ろ振り返ってみろや」
「あっ……れれ? 親分がいない?」
「違う次元に入ったんだ。 急いでゲンを探しに行くぞ」
二匹は一目散に手宮交差点に向かった。
クニオが「よしここで別れよう。 お前はここから山側を探せ。俺は海側を探す。 夕方ここで会おうぜ」
「クニオ兄さん、で何を探すんですか?」
クニオはその場に倒れた。
「お前ここになにしに来たのかわかってねぇの?」
「?……なんとも?」
クニオは心の中で「頭、こんな大事な任務になんでポチだったんですか?」
気を取り直したクニオは「よく聞けよ、ゲンぼっちゃんを探して連れて帰るの。 そして帰える為のユラユラを探してそこから帰る。 わかったか?」
「はいわかりました」
ポチはクニオに背を向けて歩き出した。
十メートルほど歩いたところでクニオは「ポチこれから何を探すんだ言ってみろ」
笑顔で「ユラユラの坊ちゃんです」
クニオは肩を落としシッポを下げた。
「俺ひとりで頑張ろう」呟きながら歩き出した。
その頃ゲンは行く当てもなく痩せこけ、民家の軒下でうずくまっていた。 そこを通りかかったポチに発見されクニオと合流した。
クニオが「ゲン坊ちゃんお体の具合は大丈夫ですか? もう安心してください我々がついてますから。 このクニオが必ず親分のところにお戻しします。 とりあえずなにか腹一杯食べやしょや! ポチお前もよく見つけたな、頭からご褒美もらえるぞ」
こうして三匹はユラユラを探して小樽の町を歩き出した。
アマテルとミミは相変わらずユラユラを探し歩く毎日。 赤岩を歩いていると頭のトシユキと出くわした。
ハチが「トシユキさんどうですか?」
「おう、見たっていう証言はあるが、行ってみると消えていたよ。 ありゃあ、タイミングが必要だな」
「タイミング」そう呟くとアマテルは下を向いた。
ハチが「また頑張ります。 トシユキさんも頑張ってください」
「おう、なにかあったらいつでもこいや。 力になるからお互い頑張ろうぜ」
三匹はトシユキと別れた。
伝助が「アマテルどうかしたワン?」
アマテルが重たい口を開いた「この辺に神社か祠ある?」
ハチが「色内神社なら小学校の上の方にあったはずだけど、
それがどうかした?」
「なにか気になるの、何かわからないけどユラユラと鳥居……上手く説明出来ないけどなんか似てるのよ……」
伝助が「じゃあ、とりあえず色内神社に行ってみよう」
こうして三匹は色内神社の前で足を止めた。
ハチが「アマテル着いたよ、どうするニャン」
アマテルは鳥居の下で目を閉じて瞑想に入った。 伝助とハチは境内をとりあえず見て回った。 一時間ほどしてが立ち上がった。
「祝津のトンネルに潮の満る頃までに行きましょう」
ハチと伝助はアマテルが絶対何かを感じ取ったに違いないと、少しの期待を胸に秘め祝津に向かった。
伝助が「もしかして、このトンネルにユラユラが出るのかい?」
ハチと伝助はすがるような目でアマテルの言葉を待った。
「ハッキリとわからないニャ、この辺りで潮が変わったとき
何か起こるような気がしたニャン」
異世界に紛れ込んだ三匹は空間の歪みを探し、小樽から祝津にかけて何度も何度も往復した。食以外の時間を空間の歪み探しについやした。
祝津のみんなと別れてひと月が過ぎた。
伝助が「のう、アマテル、他に方法はないのかなぁ」
「ええ、わたしも最近そのことを考えてます。 もっと効率のよい方法はないのかニャって?」
ハチが「ミミは本当にラッキーだったニャン」
アマテルは母親の顔を思い浮かべながら「本当だよね……」
いつものように手宮交差点を三匹が歩いていると突然雑居ビルの横から大きな黒い犬が出てきた。
「おい、こらっ。おまえら最近この辺を頻繁にうろついてるようだがいったいなんなんだ?」少し威圧的な態度だ。
伝助が「僕たちは祝津のものです。ある物を探してますワン」
「探し物? それはなんだ、言ってみろ?」
「いえ話すほどのものではありません」
「嘘いえ、お前ら三匹、毎日必死になって探してるのを俺は知ってるぞ言ってみろ。 言わねえと噛み殺すぞこらっ!」
アマテルが「歪みです。 空間の……」
「歪み? 空間の? おまえら俺を馬鹿にしてるのか? 噛み殺されたいかこらっ!」
ハチが「本当です。それ以外に表現のしようがないのです。……ミャ」
「とりあえずそこの三匹ちょっと俺に着いてこいや!」
ハチが恐る恐る聞いた「どこ行くんですか?」
「う~るせっ、つべこべ云わねぇで黙ってついてこい!」
三匹は渋々と犬のあとをついて歩いた。 五分ほどでショッピングセンター跡地に着いた。 突然物置小屋の上から声がした。
「おいクニオ、そいつらはなんだ?」威圧感のある黒いシェパード。
「頭、こいつら最近この界隈をうろついてるし、なんか訳ありみたいなんで連れてきました……ウスッ」
頭のトシユキは「おう、俺も何度かこいつら見かけてる。 おい、そこの雄犬どういう魂胆だ? 云ってみろワン」
伝助はアマテルとハチの顔を見た。 二匹は軽くうなずいた。
「はい、じつはですね……」今日までの経緯を淡々と話した。
「そ、そ、それってカゲロウみたいなユラユラした空気か?」
三匹は目を丸くして驚き「えっそれです。 知ってるんですか?」伝助が言った。
「おう、晴れた時の道路のゆらゆらみたいなやつだな」
アマテルが「はい、それです」
「今年に入ってから何度か見たぜ 。曇り空なのに空気がユラユラ変だなって思ってたけど……それのことか?」
伝助が「たぶん我々が探してるものかもしれません。 ワン」
クニオが「頭、もしかして坊ちゃんが消えたのと、なにか関係があるのかも知れませんね……」
「うん、俺も今おなじことを考えていた」
アマテルが「もし宜しければ事情を話してくれませんか?」
「ひと月前なんだが突然息子のゲンがいなくなり、ここら界隈の犬仲間や猫衆にも頼んで探し回ったんだが、見つからなかった」
クニオが「それから、姉さんが寝込んでしまったってわけだワン」
伝助が「たぶんおなじ現象かもしれません。 話の流れからすると別世界で生きていると思われます。 その歪みを一緒に探しましょうよ」
「おう、そういうことなら話は早い、クニオみんなに号令をかけてその歪みを探させろ。 そして見つけたら……どうするの? ワン」アマテルの顔を見た。
アマテルが「とりあえず事情を知ってる私たち三匹と、息子さんの顔を知ってるそちらの誰かが、向こうの空間に一緒に行くんです。 そして、その世界でユラユラを探し息子さんをこちらに連れ戻す」
トシユキが「おう、そういうことだ。 クニオお前が行け」
「えっ、わたしですか? 本当にこっちに戻れるんでしょうね?」
アマテルが「大丈夫です私たちも向こうからこちらへ来たのです。 すでにミミという仲間が先に戻ってますから、向こうの祝津でも事情は把握してるはずです。 必ず応援してくれます」
トシユキ親分の号令で数十匹の犬と猫がユラユラを探し回った。
そして三日が過ぎ、一匹の白犬がクニオの元に駆けつけた。
「頭、ユラユラだと思われるものを色内小学校上の神社で発見しました」
「おっ、そっか、でかした!」
横にいた子分のポチが「よかったですね親分」
「おう、すまねえがクニオと祝津の例の3匹を急いで探してきてくれ」
色内小学校の裏手にポチとクニオの二匹だけでやってきた。
トシユキは「ポチあいつらはどうした」
「見あたりませんでした。 とりあえずクニオさんだけお連れしました。 もう一度探してきます」
「そっか……行くな! 行かなくいい、ほうっておけ」
「えっ? だって頭……」
クニオが「馬鹿野郎、頭がそう言ってんだからそれでいいの、
黙ってハイって言えばいいのわかった?」
「あっ、はい……」
トシユキは「クニオわかってるな。必ず探しだして戻るんだぞ。 無事戻ったときにはへへッ、長橋方面の縄張りはお前に任す」
「あ、ありがとうございます」
「ポチお前も一緒に行け、頼んだぞ」
「ワン」
クニオとポチがユラユラに入っていった。
「クニオ兄さん、なんも変わりありませんね」
「ポチお前は馬鹿か、後ろ振り返ってみろや」
「あっ……れれ? 親分がいない?」
「違う次元に入ったんだ。 急いでゲンを探しに行くぞ」
二匹は一目散に手宮交差点に向かった。
クニオが「よしここで別れよう。 お前はここから山側を探せ。俺は海側を探す。 夕方ここで会おうぜ」
「クニオ兄さん、で何を探すんですか?」
クニオはその場に倒れた。
「お前ここになにしに来たのかわかってねぇの?」
「?……なんとも?」
クニオは心の中で「頭、こんな大事な任務になんでポチだったんですか?」
気を取り直したクニオは「よく聞けよ、ゲンぼっちゃんを探して連れて帰るの。 そして帰える為のユラユラを探してそこから帰る。 わかったか?」
「はいわかりました」
ポチはクニオに背を向けて歩き出した。
十メートルほど歩いたところでクニオは「ポチこれから何を探すんだ言ってみろ」
笑顔で「ユラユラの坊ちゃんです」
クニオは肩を落としシッポを下げた。
「俺ひとりで頑張ろう」呟きながら歩き出した。
その頃ゲンは行く当てもなく痩せこけ、民家の軒下でうずくまっていた。 そこを通りかかったポチに発見されクニオと合流した。
クニオが「ゲン坊ちゃんお体の具合は大丈夫ですか? もう安心してください我々がついてますから。 このクニオが必ず親分のところにお戻しします。 とりあえずなにか腹一杯食べやしょや! ポチお前もよく見つけたな、頭からご褒美もらえるぞ」
こうして三匹はユラユラを探して小樽の町を歩き出した。
アマテルとミミは相変わらずユラユラを探し歩く毎日。 赤岩を歩いていると頭のトシユキと出くわした。
ハチが「トシユキさんどうですか?」
「おう、見たっていう証言はあるが、行ってみると消えていたよ。 ありゃあ、タイミングが必要だな」
「タイミング」そう呟くとアマテルは下を向いた。
ハチが「また頑張ります。 トシユキさんも頑張ってください」
「おう、なにかあったらいつでもこいや。 力になるからお互い頑張ろうぜ」
三匹はトシユキと別れた。
伝助が「アマテルどうかしたワン?」
アマテルが重たい口を開いた「この辺に神社か祠ある?」
ハチが「色内神社なら小学校の上の方にあったはずだけど、
それがどうかした?」
「なにか気になるの、何かわからないけどユラユラと鳥居……上手く説明出来ないけどなんか似てるのよ……」
伝助が「じゃあ、とりあえず色内神社に行ってみよう」
こうして三匹は色内神社の前で足を止めた。
ハチが「アマテル着いたよ、どうするニャン」
アマテルは鳥居の下で目を閉じて瞑想に入った。 伝助とハチは境内をとりあえず見て回った。 一時間ほどしてが立ち上がった。
「祝津のトンネルに潮の満る頃までに行きましょう」
ハチと伝助はアマテルが絶対何かを感じ取ったに違いないと、少しの期待を胸に秘め祝津に向かった。
伝助が「もしかして、このトンネルにユラユラが出るのかい?」
ハチと伝助はすがるような目でアマテルの言葉を待った。
「ハッキリとわからないニャ、この辺りで潮が変わったとき
何か起こるような気がしたニャン」