恋のリハビリ ~ 曖昧な関係に終止符を
プロローグ
東京のとある町のありきたりな夕方の情景。
どこかの家で目覚まし時計のベルが鳴っている。
木造モルタル2階建ての外廊下式アパート ――
時計のベル音はこのアパートのどこかの部屋で
鳴っているようだ……
『うっせーぞ!
いい加減起きて、そのベル止めやがれっ』
ジリリリリリリ~ン ――――。
ベッドサイドのテーブルに置かれた目覚まし時計が
ベルを鳴らし続けている。
隣の住人が薄い壁をガンガン蹴り飛ばし、
時計のベルを止めろと催促。
無人だと思っていたベッド上の小さな膨らみが
モソモソと動いて、ブランケットの中から
ぬぅ~と伸びた手が時計のベルを止めた。
そのひと息違いくらいで
玄関のドアが開いた気配がして、
若い女の声も。
『りつぅー、おはよ~。起きてるぅ?』
ややあって、この室への内扉も開き来訪者・
国枝 利沙(くにえだ りさ)が入って来た。
「もうやだっ! また寝ちゃったのぉ……
コラ、さっさと起きなさい」
と、この室の主がまだ寝ているらしい
ベッド脇に添うよう跪いて
利沙は主が寝ている辺りのベッドの膨らみを
手で軽く叩く。
「ホラほら。さっさと起きてー」
すると、さっき目覚まし時計のベルを止めた手が
再びブランケットの中からぬぅ~っと伸びてきて、
くぐもった声が――。
『うぅ~~っ、りさぁ―― 胃薬、ちょうだい』
「え~っ、また、なの?
相変わらずメンタル系弱いわね」
『だってぇぇぇーー。お出かけ、久しぶりなんだもん』
「ほら、とにかく起きなさい」
と、ルナがブランケットをめくって現れた
主・小鳥遊 律は、目覚まし時計がけたたましく
鳴っていても眠り続けていた割には
バリバリの寝不足顔で、
おまけに瞳が充血しまくりで
真っ赤である。
「ちょっとヤダっ! なにその顔と目」
「え~っ、そんなに酷いー?」
「あんた、メンタル系がどうのこうの言うより
女としての自覚なさ過ぎよ。
ほら、さっさと立って顔洗ってらっしゃい」
「はぁ~い、あ、コーヒーはブラックでね」
律と利沙。
やる事なす事全てが
のんびりでおっとり系の律に対し。
関西人(神戸出身)のくせにちゃきちゃきの
江戸っ子気質もある姐御肌の女の子・利沙。
母親同士が無二の親友ってコトで。
生まれた時から ”腐れ縁”の域に達する親友同士。
その長い長ーい年月の中では、
たまたま同じ人を好きになったり、
くだらないケンカで気まずい状態のまま
かなり長い間疎遠になった事もあったけど、
仲直りの度に絆も強くなっていったような気がする。