Beast Love
「げ、玄武くん……っ?! み、見ないで……っ」


涙を浮かべて下着を隠そうとしている小雪を見る限り、どうやら任意で行なっているわけではなさそうだ。


ホコリと誰かの欲望で淀んだ空気に、胸が詰まりそうになる。


俺は無意識のうちに、マットの上に座っている湯沢コーチの胸ぐらを掴んでいた。

「なにやってんだよ、あんた……!」


自分でも聞いたことのないような低い声で、相手を睨みつける。


「なに、って……。ちょっとエロい写真撮らせてくれってお願いしただけだよ」


薄ら笑いを浮かべる男に理解が出来ず、怒りが込み上げてくる。


思わず感情のままに殴りつけようとした俺の思考は、いつの日か父にかけられた言葉に、遮られた。



ー 『アキラの手は、大きいなぁ。バスケなんかやってみたら、きっとボールが手のひらに吸い込まれるような感覚がするぞ!』 ー


どうして、こんな時に思い出すのは……取るに足らない日常なのだろう。

ー 『バスケ部でレギュラーになったんだって?! 凄いじゃないか! さすが、父さんと母さんの自慢の息子だ!』ー


……嗚呼、そうだ。


俺の手が大きいのは、人を殴るためじゃない。


バスケをするためなんだ。
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