Beast Love
ただならぬ雰囲気の多田顧問を前にして、真っ先に口を開いたのは、湯沢コーチで。


「そうなんです、俺が居残り練習してたら玄武がいきなり体育倉庫に押し込んできて……俺を殴ってきたんです!」


よくもここまで真っ赤な嘘を饒舌に語れるもんだな、っと睨み付ければ、多田顧問が俺にズイッと近寄ってきた。


「それは本当なのか、玄武」


……もし俺がここで本当のことを話せば、小雪はどうなる?


この男に無理やり押し倒されたことを、公にされてしまうだろう。


彼女は、この場から走り去ってしまった。


ならば、みんなに知られたくないってことじゃ……


「どうなんだ、玄武?」


耐えがたい重圧を跳ね除け、グッと唇を噛み締める。


「言いたく、ありません」



……そして俺はこの日から、部活仲間やクラスメイトや教師にまで、”コーチを殴った”と指を指されることになる。

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