Beast Love
コーチを殴った奴だと嘘の噂で周囲からの評価は落とされ、退部にまで追い込まれ、散々悔しい思いをしてきたハズなのに…………。


言いたいことだって、他にもまだ沢山あるハズなのに。



「えー、ホンマにそれだけでエエの、アキラは?」


白虎町くんが残念そうに下唇を尖らせるが、彼は意志を変えない。


「ああ。それだけで良いよ」


両者互いに腕を捲り上げ、コートの定位置についた。


「ふーん、あっそ。お前が勝てたら、土下座なりなんなりしてやるさ。ただし、あんまり俺をナメるなよ、玄武……」


先制の湯沢コーチが持つバスケットボールが、何度も地面に叩きつけられては、手のひらに吸い寄せられる。



名指しされた小雪さんはというと、今にも泣き出してしまいそうなほど瞳を潤わせている。


”自分が負った傷のために、共に立ち向かってくれる人がいる。”


それはとても心強く、嬉しいことだから。


「……玄武くん、頑張って…………」


マネージャーの小さな祈りが呟きに変わった瞬間、審判役を買って出た社会人が鳴らす笛によって、戦いの火蓋が切って落とされた。

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