Beast Love

「お、お前ら、覚えてろよっ！」



湯沢コーチはプライドも部員からの信頼も居場所も失い、悪役のような捨て台詞を吐き、半泣きになりながら去って行った。


夕陽が完全に隠れ、街頭に照らし出された並木道にある桜の花びらがひらりと、部員と玄武くんの間で舞い踊る。


「んっ、仲直りの印」

全ての誤解が解け、再び部活仲間に握手を求められて困惑している玄武くんであったが、次に放たれた彼らの言葉を聞いて、その顔に朗らかな笑顔が戻った。


「俺たち、アキラが部活に戻ってこれるよう、月曜日に全員で顧問を説得するつもりだよ。だから、またよろしく頼むよ、エース。室内用のバッシュとか捨ててないだろうな？」


「捨ててるわけないだろ。俺が戻りたかった場所に行ける、大切な物なんだから……。ありがとうな、みんな」


一度は噂と言う名の壁に隔れた。


がむしゃらに真っ直ぐ進む意思が、友情が、湯沢コーチの虚栄心で築かれたその壁を、突き崩したのだ。



和解し、手を取り合う男子高校生たちを、春風が優しく包み込む。



遠くでその様子を見ていた社会人たちは、ビールを飲んだあとのような苦々しく爽快な感情に、「青春だなぁ」と口角を上げた。