Beast Love
ーー……今から数ヶ月前。


その頃の俺はコーチを殴ったという噂が肥大化し、顧問を殴ったという噂により完全に居場所を失っていた。


『玄武くんって、あんな爽やかなのに人を殴ったりするだねー』
『マジ信用できねぇーよなぁ。イラつかせたら俺たちも笑顔で殴られるかもよ?』
『ねぇねぇ、玄武くん! なんで顧問の先生を殴ったの?』

どこにいても指をさされ、悪意なき好奇心に振り回される。


うんざりだった。


その日は昼休みになってもクラスメイトに付き纏われ、ひとりになりたくて屋上に行った。


小雨が降っていたから、こんな天気の日に外で飯食う奴もいないだろうと思ったからだ。


が、ドアノブを握って前に押し出そうとすれば、扉越しに人がもたれているようで、ガツンッと途中でつっかえる。


「なんだぁ? テメェは」

ポツポツと雨の落ちる音を聞きながら、男子生徒は眉間にシワを寄せてパンを頬張っていた。



男子生徒の顔には見覚えがあった。


鳳凰 正人、他校生とも喧嘩を交えているらしい、桜島高校の風雲児。


まぁそれも俺と同様に霧のように広がる噂でしか知らない、素性だが。

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