Beast Love
「あ、お前は確か……バスケ部の玄武 輝だったっけか? エースでレギュラーの」


嗚呼、この人もか。


ざわめく嫌悪感が、目の前の人物との距離を開く。


「すまない、邪魔して悪かったな」


踵を返して来た道を戻ろうとすれば、「おい、」と呼び止められる。

「せっかくだし話聞かせろよ。バスケ、上手いんだろ?」


その瞬間、俺は勝手に勘違いしていたことを悟る。


彼はただ純粋に、バスケ部だった俺を知っていただけなのだと。


「ああ、ありがとう」

意表を突かれたが、大人しく隣に腰を下ろす。



「大会のゴール前で相手抜く時って、なに考えてんの? 『あそこのマネージャー可愛いな』とか思ったりすんの? 俺なら思うけど」

「あははっ。そんなこと考えてる余裕ないさ。がむしゃらに動いてるよ、息するのも必死なんだから」

「げー、マジで? 俺中学は野球部だったけどよ、外周走らされてる時も街中歩いてる女子ん中に可愛い子いねぇかなってずっと探してたぜ?」

「まぁ、その気持ちは分かるよ」


取り留めもない会話を交えていると、本当にこの人物が暴れ倒している人物なのかと錯覚しそうになった。


よくよく聞いてみると、マサトは俺の身もふたもない噂も知っていたらしい。


だが、そんなのただの噂だろって、豪快に吹き飛ばしてくれたんだ。



‪「お前が過去になにしたかなんて噂、俺は興味ねーよ。大事なのは、今俺の目の前にいて喋ってる奴の言葉だろ?」、って。‬


‪その不器用な気遣いに、当時の俺は救われた。‬


幾分か、心が軽くなったんだ。


それから俺たちはよく屋上で昼飯を食い合う仲になった。……ーー
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