Beast Love
雨漏りによりすでに湿っている制服に傘を差し出しながら名を呼ぶと、容姿端麗な顔がゆるゆるとこちらを向いた。


「ああ、驚いた。天音さんか。こんばんは。こんなところで何してんの?」


それはこっちのセリフだよ!っと突っ込みつつ、祖母のために夕飯の買い出しに来ていたことを伝える。


「青龍院くんこそ、こんなところで何してるの? 塾の帰り?」


思い付く限りの言葉を口にすれば、まさに水も滴るいい男は首を横に振った。


「いや、俺は塾には行ったことないよ」


「ええーっ! そうなの?!」


全部自分で勉強してるんだ、凄いなぁ……。


それでいて、要点を抑えた説明で分かりやすく教えてくれるんだもんなぁ…………。


「青龍院くんってやっぱり、天才だね。私、青龍院くんに勉強教えてもらってる時にさ、青龍院くんみたいな先生がいてくれたなぁ〜ってずっと思ってた! そしたら、私みたいな出来の悪い生徒でも良い点数取れるのになぁ〜なんて。あはは」


照れながら素直な気持ちを伝えると、彼は力なく笑ってくれた。


「……ありがとう。その言葉に少し、救われた気がする」


「…………? どういたしまして……」


表情は穏やかだけれど寂しそうな天才の雰囲気は、空から降ってくる雨にどこかよく似ていた。


触れるとすぐに弾けて消えるような、地面に落ちると風景と同化して見えなくなってしまうような、繊細さ。


微妙な沈黙と、夜が落ちてくるような雨の音が、私たちを包む。
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