Beast Love
放課後、帰り支度を済ませて教室を出ようとすれば、トオルくんから呼び止められる。
「天音さん、化粧の仕方を教えてくれないか」
「け、化粧の仕方?」
真面目な彼からの意外なお願いに、思考を張り巡らせる。
(ハルカくんみたいな女装趣味、あったっけ?……あ、そうか。文化祭の演劇で女性を演じるから、その為のお願いか)
驚きから納得へ変わった私の表情を見て、目の前にある瞳が細くなった。
「……ちょっと今、変な誤解しなかった?」
「いやいや、そんなことは」
「あっそ」
周りではガタガタと椅子をしまい込んで、遠足児のようにウキウキと教室を出て行くクラスメイト達の数が減っていく。
玄武くんは早々に部活に向かったようだ。
部活動最後の総体というものが近づいているらしい。
マサトと白虎町くんも、教室にはもういない。
「化粧教えてくれる代わりに、勉強教えてあげるからさ。頼むよ」
とんだ交換条件だが、私は心弾ませて首を縦に振った。
「やったー! 勉強教えてくれるなら、喜んで!」
トオルくんに勉強を見てもらえるなら、赤点回避は確実である。
そんな打算めいた考えが透け透けのニヤケ顔で私は、彼の後ろをついて行った。