Beast Love
「そうです、緊張してます。だから急に近づかないで! 危ない! あと1ミリ近づかれたら私、死ぬかもしれない!!」


ガバッと手のひらを突き出し、後退して距離を取る。


「トオルくんとか玄武くんとか白虎町くんの顔って、軽く乙女をひねり殺せる殺人兵器だから! 本人たちには自覚ないだろうけど」

「な、なんだか褒められてるのかよく分からない言われようだな……」


「褒めてます褒めてます」


その後も懇々とイケメンは乙女に多大なる影響を与えてしまうことを説明すると、律儀な彼はきちんと距離を守って机の向かい側に座り、勉強を教えてくれた。


ただ、教科書から顔を上げた瞬間に目と目が合って私がときめいてしまうのは、不可抗力だと反論されてしまう。


「っていうか別に、俺は天音さんに好きになってもらっても歓迎だけど」


サラリとそんなクールな台詞を吐いてしまえる男前の言葉など信用できない私は、ルーズリーフにペンを走らせながら「お世辞乙」とバッサリ切り捨ててやった。


これだから、イケメンというものは恐ろしい。


‪甘い台詞という名の弾を込めて軽く引き金を引くだけで、世の女性の乙女心をいとも簡単に破壊できるのだから。‬



「……お世辞じゃないけどな」


向かい側で頬杖をついてなにやら不満気に呟く完璧男の台詞は、聞こえないふりをした。


本気でもない言葉に振り回されていては、せっかく教えてもらっている勉強が頭に入らないと思ったから。
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