Beast Love
もしも昨日の一件が、私の感違いだったなら。




こちらから謝った方が良いのだろうか?



「ーー……ね……、……さん、」


いやぁ、でも急に腕引っ張ってくる方も悪いし……。



それに、最初に『俺のこと好きになるな』って突き放してきたのに、手のひら返したみたいに抱き寄せられても、こっちにはこっちの都合ってものも……


「ーー……ん、……天音さん?」



文化祭の準備を終え、さまよえる旅人のようにフラフラと帰り道を辿っていた思考を取り戻す。



隣では、家まで送り届けようと歩いていたトオルくんが、心配そうに私の顔を覗き込んでいた。




「大丈夫か? 学校を出てからずっと、上の空だけど……」


「だ、大丈夫! 文化祭が近づいてきてるから、緊張してるだけ! は、ハハハッ」


乾いた笑い声が、黄昏に帰っていく。


……そう、いよいよ来週末には文化祭の本番。



「それなら、いいんだけど。まぁ文化祭が落ち着いたらすぐに受験シーズンだし、緊張もするよな」


そしてその後すぐに、高校3年生の私たちには受験が待っている。



「うん。とりあえず文化祭、頑張ろうね。あ、楽しもうねって言った方が相応しいかな?」


にこりと微笑めば、眩しそうにトオルくんが顔を逸らす。
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