Beast Love
「そうだな。……文化祭、楽しもうな」



「うんっ。じゃ、家すぐそこだし、送ってくれるのはここまでいいよ。ではでは、また明日ね」


「ああ、また明日。気を付けて」


こっちに引っ越して来てから、また明日と手を振り合う人物がまさか、自分とは不釣り合いな程に完璧なトオルくんになるとは、夢にも思っていなかったけど。



でも、明日を共に迎えようと同じ方向を見つめてくれる人がいるのは、なんだか心強い。



『アンタの優しさは、人を不幸にするだけよ!』
『お前の味方なんて、此処にはひとりもいねぇよ! バ〜カッ』



周りに誰もいない、みんなが遠ざかっていくあの頃と……途方に暮れていたあの頃とは、違うんだ。



時折、寄せては返す記憶の波が、心を暗く沈めていく。


引っ越してくる前の学校で起こった、忘れたい過去が……今でも私を、苦しめる。



「天音さん、」

「えっ?」


名前を呼ばれて振り返れば、柔らかいものが頬に触れる。


それは、一瞬の出来事で。



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