Beast Love
「えーっ! もうふたりとも行っちゃうのー?」


ぶすーっとハリセンボンのように頬を膨らませるいっちゃんに、ぺこりと頭を下げる。


「うん、ごめんね。あとは助っ人を呼んでくるから、その人と一緒に演劇を見に来てくれる?」


そう、私はいっちゃんがひとりで寂しくないように、あるお方に助けを求めていたのである。


それは…………



「やっほー、天音さん。この方が、お友だちのいっちゃんさん?」


バスケ部マネージャー、小雪さんである。


彼女ならば安心して親友を託せると思い、前もって話をつけていたのだ。


小雪さんは、『天音さんには部活の件でお世話になったし、喜んで引き受けるよ。私なんかに大切な友だちを紹介してもらえるのも、嬉しいし』、と快く承諾してくれていた。


「初めまして、小雪さん! 不束者ですが、よろしくお願いします!」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


「じゃぁ私たちは一旦、教室に戻るね」

いっちゃんと小雪さんが無事に合流できたところで、私とハルカくんはリハーサルをしに教室へと急ぐ。


階段を駆け上がりながら、同じように教室へ戻るクラスメイトを他所に、ふっと大事なことを思い出した。


(……あ! いっちゃんに、トオルくんと付き合うことになったって言うの、忘れてた)



……まぁ、後でも良いか。


「今は、白虎町くんの妹さんの為にも演劇を成功させることに、集中しよっと」



この判断が後に、私の運命を大きく左右することとなる。

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