Beast Love
ミス・コンテストに出れば賞を総なめしそうなくらいに美しい女性に変身した彼は、泣いている私を見て驚いている様子だ。



「……天音さん、泣いてるのか? 」


細い指が、さらりと涙をすくい取る。


「ご、ごめんっ。なんでもないから、……っ」


慌てて顔を逸らせば、無理やり指で引き戻される。


「何があったんだ?」


忌々しそうな、刺々しい口調から察するにトオルくんは、私が何かに涙している現状に機嫌を損ねているようだ。


金髪のウィッグの髪を肩からはらりと落とし、顔を覗き込もうと少し屈んでいる彼は、どこからどう見ても綺麗な女性にしか見えない。


「俺には言えないようなことが、天音さんの身に起こったってこと?」


マサトに泣かされたと言えば、それで終わり。


……なのに、言いだすことができない。


喉元で、泣いても泣ききれない悲痛が引っかかっている。


もしかしたら、マサトの言った言葉には悪意なんてこれっぽっちも無くて。


ただ本当に私の演技が下手くそで、皆んなの気持ちを代表して言ってくれたのかも知れないし、……それに。


冷静になってよくよく考えてみれば、あの人が急にあんなことを言い出すなんて、少し変だなぁ……っと都合よく勘ぐってしまう自分もいたから。
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