Beast Love
煌めく水面に映し出された三日月は、波によってちぎられようが、すぐに元に戻った。


明日を盗んだような笑い声が、水飛沫とともに弾ける。



「うん。Z組に来てから、幸せだよ」


「そうか。そりゃぁよかったな」



校舎から放たれる懐中電灯の光が、私たちに向けられた。



「こらー! お前たち、こんな時間になにやっとるんだ!」


警備服を来た中年男性の怒号が、夜にぴしゃりと轟く。



「うわ、ヤベッ! もう見つかった!」
「みんな、逃げろーっ!」


状況を理解するよりも早く、クラスメイト達はプールから這い出て校門へと走っていく。


首ばかりが前に出て鳩が走っているみたいに走っている人もいれば、手を振り回して夢中で駆けている人もいた。



ただ、ひとり残らず……みんな、笑っていた。


「桜島高校、最高ーっ!」



ひとときの青い春が、確かにここには存在していた。



瞬きする間に消え去ってしまうような、けれどまぶたの裏に張り付いて離れない、そんな青い春が。
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