Beast Love
平常心を装いながら家の前まで送り届けてくれたトオルくんに、「またね」と別れを告げた。
やけに疲弊した身体を引きずり、大きなため息を吐いて玄関の扉を開く……が、しかし。
扉はガッと意地悪な音を鳴らして、開かず。
「あれー? 鍵が閉まってる?」
おばあちゃん、どこかに出掛けてるのかな。
首を傾げながらポストを覗き込み、定位置に置いてある鍵を取り出して玄関を開けた。
「ただいまー」
静まり返っている空間に、ただ寂しく声が吸い込まれていく。
出汁をとる夕飯の匂いも、鍋が煮える音も、なにも感じない。
訝しながら台所へと向かうと、テーブルの上には1枚のメモ用紙が。
『演歌のコンサートに行ってきます。帰りは遅くなるから、冷蔵庫に入れてあるおかずを温めて食べるんだよ』
「あーっ! そうだ、おばあちゃん今日は大好きな演歌歌手のコンサートに行くって言ってたなぁ〜」
……っと言うことは、夜遅くまで今日はひとりかぁ。
寂しいなぁ、とつぶやきなら電源を入れたテレビは、数秒後に画面に光が灯る。
「はぁ。おばあちゃんが帰って来るまでに、先にお風呂入っとこ」
自室に鞄を放り投げ、私はせっせと入浴の準備に取り掛かる。