Beast Love
服を脱いで丁寧に髪と身体を洗ったあと、お湯の張った浴槽へちゃぷんと足から突入していく。


肩まで浸かれば、白い湯気を吐き散らしてお湯が溢れていく。


「んはーっ。いい気持ち〜っ」


自分しかいない静寂に包まれた浴槽内でひとり反省会をしてしまうのが、私の日課。


休み時間でのこと、友だちとの会話内容、授業中に先生が喋っていた雑談。


トオルくんとの帰り道で、ときめいたことなど。


当たり前の風景や、些細なことまで思い返して、私は私の周りの人を今日も1日大切にできたかを見つめ直す。



ー『あんたなんか、いなきゃ良かった!』ー


もう二度と、友だちにあんな悲しい思いをしないように。



「あー、まただ……」


反省会のあとに湧き出てくるのはいつも決まって、転校前の学校で起きた苦い思い出だ。



時が経っても、忘れられない。


夕暮れの帰り道、泣きながら坂を下り家に帰っていた毎日を。


「…………」


お湯に顔をつけて、口からぶくぶくと息を吐く。



ぎこちなくても、少しずつでも、私は前に進めているのだろうか。



(唯一、心残りがあるとすれば、…………)



自分が余計なことをして煙たがられた友人に、面と向かって『転校する』ことを、伝えれなかったこと。



今さら後悔したところで、遅いけれど……。


< 325 / 548 >

この作品をシェア

pagetop