Beast Love
「その人に、憧れてたの?」
今まで知ることのなかった男子の過去に興味が掻き立てられた私は、自然とそう尋ねていた。
尋ねずには、いられなかった。
「ああ、誠司さんは消防士として働いていて、人を助けることに誇りを持っていた。俺は、そんな誠司さんの背中に……いつかこんな人になりたいと、憧れを抱いていた。追いつきたいと思ってた」
しかし、彼は言う。
憧れていた男は、人助けによって命を落としたのだと。
「ある日、一軒家で火事が起こって、誠司さんはその消化活動に向かった。家の中に双子の兄弟が取り残されていると知って、なんの躊躇いもなく火の海に飛び込んだんだ。それで双子を助け出したあとに柱が直撃して、身動きが取れずに、焼け死んだ」
憧れていた男性の死は、幼きマサトにどれほどの影響を与えたのだろうか。
どれほどの深い悲しみの底に、叩き落としたのだろうか。
「ちなみに、助けられた双子の名前は、……宇佐美 昇と宇佐美 翔」
「えっ! まさか、それって……」
予想だにしていなかった人物の名前を聞き、驚きを隠せない。
私は、その名前に当てはまる人物を、ひとりしか知らない。
「そう、宇佐美先生たちのことだ」