Beast Love
麦茶を飲み終えたコップを洗おうと席を立てば、後ろからカナエさんが静かな声音で話しかけてきた。


「……最近ね、マサトが律儀に学校に通ってる理由が、ちょっと分かった気がするよ」


振り返れば、慈愛に満ちた瞳を向けられる。


「あいつね、ノゾミちゃんのことが気になってしょうがないんだと思うの。いろんな意味で。そりゃ、ノゾミちゃんみたいに可愛い子がクラスにいたら、誰でも真面目に学校行きたくなると思うけどね」


良い意味でもなく、悪い意味でもなく。


彼にとってその両方を兼ね備えている存在が、私なのだと言う。


「そういうのを、”守ってあげたくなる”っていうんだろうね。マサトはさ、あんな憎たらしいこと言うけど、根は悪い奴じゃないんだよ。だから、…………」


言葉の続きを躊躇うカナエさんの声が、なぜか泣いてるように聞こえた。


「マサトのこと、よろしく頼むね。ノゾミちゃんみたいにいい子があいつの側にいてくれたら、私も安心だよ」



続きを躊躇った理由を、なぜか今は聞いてはいけないと思ってしまった。


聞けばカナエさんが、本当に泣いてしまうような雰囲気があったから。


だから私はただ、託された想いを……誠実に受け取ることしか、できなかった。


「はい。任せてください! 今回、助けてもらったご恩はきっちり、鳳凰くんとカナエさんに返したいと思いますっ」


私からの返事を聞き届けたカナエさんは、安心したようにゆっくりと瞬きをする。


「……よかった。じゃぁ、今日はゆっくり休んでね。おやすみ、ノゾミちゃん」

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