Beast Love
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ノゾミから背を向けて部屋を後にし、いまだに飛び出そうなくらい大きくポンプしている心臓を抑えて、自室へと戻る。
魂も一緒に抜け出ていきそうな深いため息を吐き、扉にもたれかかってズルズルと黒いカーペットに座り込んだ。
「はーっ。やっちまった……」
……これは、ギリギリアウトか?
なんせまだ、鼻の先にノゾミの香りが残っている。
理性と本能がぐちゃぐちゃに心を掻き乱して、もう目の前にいる小動物みたいな女子生徒を、襲ってしまいたくて。
よくあそこで引き返せたと、自分で自分を褒めてやりたいくらいだ。
一線を越えなかったのは、アイツが”友だち”の……トオルの、女だからだ。
いつだって呼び出せば抱ける女なんて数えきれないほどいるのに、目の前にいる女子生徒ひとり、抱きたくても抱けないなんて。
「数年前の俺から見てみれば、とんだ退化だな……」
自称気味に呟けば、スマホの画面が光っていることに気付く。
送信者はトオルからで、メッセージには|《朝イチで彼女を迎えに行く》とだけ、表示されていた。