Beast Love
「だははっ! 親父が院長のトオルがそのセリフ言うと、マジで怖いな」


怪我なんてどこ吹く風で大口を開けて笑うマヌケ面に、小さくため息を吐く。


「あのなぁ、マサト……。俺、無茶するなって言っただろ」


一応、こんなこともあろうかと家から持って来た救急セットを取りに、自転車を置いている河川敷の上に戻ろうとした、その時。


「え!? 今気づいたけど、その怪我どしたの?! 血、出てるじゃん?!」


血相を変えた天音さんが、俺には全く見向きもせずに脇をすり抜けて、マサトに走り寄っていった。



天音さんから生まれたそよ風が、俺の髪を揺らす。



その刹那、チクリと小さな痛みが胸に突き刺さった。


(……嗚呼、またこの感じだ)



‪怒り、悲しみ、……負の感情に自分のすべてが揺さぶられる。


自分らしくないこんな感情なんて、……嫉妬心なんて、夕焼け空を区切るあの飛行機雲のように、あと腐れもなくスッと溶けてなくなってしまえばいいのに。


そうもいかないのは、彼女のことが好きで好きでたまらないから。



自分だけのものにしたい、自分だけを見てほしいと、思ってしまうから。

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