Beast Love
「………………くそっ、」
グッと拳を握り締め、互いに心配しあうふたりを他所に俺は早足に救急セットを自転車カゴから乱雑に掴み上げ、単細胞の脳筋男の足元に放り投げた。
ガシャンッと着地した白い箱が、マサトの脛に直撃する。
「いって! トオル、俺は怪我人だぜ? もうちょい優しくしてくれよー」
「うるさい、黙れ。失血多量で死にたくなかったらさっさとその頭を俺に差し出せ」
……そうだ、今の俺には嫉妬する権利なんてない。
こうなることも分かっていて、天音さんの支えになることを諦めて、恩人に恩を返すことを選んだのだから。
だから、今だけは。
「…………応急処置しか出来ないから、あとでちゃんと病院に行くんだぞ」
俺の好きな人の注意を惹くことに長けている憎たらしいコイツの手当てを、してやろうと思う。
「はぁーい、トオルくんありがとう〜」
「気持ち悪い声を出すな」
犬と猿のようにいがみ合っていると、俺たちのやり取りを見守っていた天音さんが、ぽろりと漏らす。
「ふたりって、仲良いよね」
「「どこが!」」
足並み揃えて出た反論は、真っ赤な夕焼け空に吸い込まれていった。
〈 episode.5 終 〉