Beast Love
そして今日は、普段は静かな街が賑わう地元の花火大会の日。



「じゃぁ、おばあちゃん、行ってくるね」


おばあちゃんに浴衣の着付けを手伝ってもらった私は、トオルくんとの待ち合わせ場所に向かうために、玄関を出ようと下駄を履く。



ガラガラっと玄関の扉を閉める隙間から、柔らかなシワを寄せたおばあちゃんが笑いながら手を振るのが見えた。


「ノゾミ、浴衣よぅ似合っとるよ。気をつけて行ってらっしゃいねぇ」


「うん、ありがとう」


照れながら小さく頷き、褒められたことに気分を良くした私は、扉を閉めきった後にカランッと1回、スキップした。


「トオルくんと、花火大会かー。完全なるデートだよね、これ……。嗚呼、改めて意識したら、緊張してきた……」


空には、橙色から紺色に変わる途中のグラデーションが広がっている。


「あ、やっばい。急がないと待ち合わせに間に合わなくなるっ」


小股で早足に進む足元からは、カランカランッと忙しない音が弾んでいく。



真夏の青春の音が、街を闊歩する。

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