Beast Love


「いやぁ、何かあったっちゅーか、……」
「マサトは気まぐれだからな」


歯切れの悪いふたりに首を傾げていると、後ろから伸びてきた手に、腕を掴まれる。


「うわっ?!」


グイッと引き寄せられ、紺色の浴衣生地が肌に触れる。


そのまま抱き寄せてきた人物を見上げれば、そこには息を切らせたトオルくんの顔があった。


「天音さん、お待たせ」


次に彼は、私と喋っていた相手をキッと睨みつける。



「悪いが彼女は俺の……って、ヨウとアキラじゃないか」


「よーっす、トオル!」
「トオルは天音さんに合わせて浴衣着てるんだな。色男に見えるぞ」

熱された夜の空気に当てられ、額から落ちる汗を拭いながらトオルくんは安堵の息を吐いた。

「なんだ、俺はてっきり天音さんがナンパされてるのかと……」


(……私がナンパされてると思って、走って来てくれたのか……。優しいなぁ)


トオルくんが汗をかいている理由が分かって少し嬉しくなると同時に、胸がチクリと痛む。



この痛みは、一体……なに?

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