Beast Love
なんてことない顔をして先輩に駆け寄ると、「鳳凰、またサボってたな〜」と軽く肘で小突かれた。


「すんません。俺、こう見えてか弱いんで」

「嘘つけ! か弱い人間はな、女の子を取っ替え引っ替えで食ったりしねぇわ!」


「あははー、またその話っすか」


他愛ない会話を交えながら、業務をこなしていく。


今日は花火大会と言うこともあってか、給油しに来るのは県外のナンバーばかりだ。


どっかその辺のコンビニにでも車を置いて、花火を見に行くんだろうな。


普通に、違法だが。



きっと、ポチ公とスカした野郎も。


ふたり仲良く、花火大会に行ってるんだろう。


まだ薬の苦味が残る口腔内が、胸の苦しさを助長させる。


(違うな、この苦しさは……病のせいじゃない)


埃ひとつない輝きを取り戻した車を見送るため、深く頭を下げる。


(……俺は、ノゾミのことが…………)



「おい、鳳凰。持ち場に戻るぞ」

「っす」

共に見送りをしていた先輩に声を掛けられ、曲げていた腰を元に戻した、その瞬間。



「あれぇ? マサトくんじゃーん」






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