Beast Love
やけにかったるい、聞き覚えのある甲高い声が俺の名前を呼ぶ。
呼ばれた方に振り向けば、毒々しいキツイ花柄の浴衣に合うように明るい髪をまとめた女子がいた。
「やっほー、マサトくん。久しぶりっ」
普通の男なら敬遠したいくらいの濃い化粧姿の女子を見つめ、俺は記憶の糸を手繰り寄せる。
「…………アンナか? 久しぶりだな」
彼女の名前は栗木 杏奈(くりき あんな)。
俺が遊び歩いていた時から付き合いがある、桜島高校内のセフレのひとり。
最近、学校内でもすれ違うことがないからすっかり記憶の片隅に消えていた存在だ。
っつか、俺たちのZ組の校舎、グローバルクラスとか普通クラスがある校舎から離れてるしな。
「ひっどーい! 今、絶対思い出してたでしょ私の名前ぇ〜」
あざとく頬を膨らませ、さりげなくボディタッチをかましてくる。
彼女が近づくたびに、主張の強い香水が周囲に香る。
空気を読んだというか俺にビビっているアンナの友だちは、俺たちから離れた場所でスマホをいじりだした。
そんな友人には目もくれず、食事を見つけた肉食獣のような視線で、俺の腕によく手入れされた爪を這わす。
「私は文化祭でマサトくんのこと、ずっと見つめてたのにぃ。って言うかマサトくんってば、またカッコ良くなってない?」
口が上手いし人との距離の詰め方も上手い。
だから、距離感をひとつ間違えた男たちはコイツの虜になる。
いずれは飽きられて、捨てられる末路を知らずに。