Beast Love
***


会場につくと、そこには人、人と人の密集地帯だった。


どこに移動しても誰かの身体にぴったりとくっ付いてしまうような密集具合。


何千人もの熱気が地表に広がっていて、中華料理で例えるなら蒸篭で蒸されている小籠包の気持ちである。


「天音さん、大丈夫?」


トオルくんが、真横から私を覗き込む。


「はい、お茶」


ショルダーバッグの中から、封の開いていない285mlのペットボトルを差し出された。


片手サイズのそれを受け取り、首を傾げる。


「えっ、私に?」

トオルくんはもう1本のお茶を鞄から取り出し、コクコクと喉を鳴らし、額の汗をタオルで拭った。


「うん。待ち合わせ場所に来るまでに天音さんの分も買ってたんだけど、歩くときに重たいかなと思って渡さなかったんだ。今、渡しとくよ。あ、お金はいらないから」



ああ、そうか。


お茶を買っておいてくれたけど、先に渡すと私の荷物になるから、タイミングを見て渡してくれたのか。



普段着慣れてない浴衣と下駄姿だし、少しでも負担にならないようにと気を利かせてくれたんだね。


トオルくんも、浴衣姿なのに。


あなたは……本当に、……



「優しいんだね……。ありがとう」



近くにある鈍色をしたスピーカーから、花火大会の開始を告げるアナウンスが、夜空に反響する。



|《ただいまより、桜島花火大会を、開催致します────》


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