Beast Love
栗木 杏奈は体育祭のプログラム用紙を見ながら、手入れの行き届いた自身の爪を歯で挟む。
「ふーん。天音さん、天音 希さん……か。ノゾミ……ってそう言えば、夏祭りの日にマサトくんが私を抱きながら呼んでた名前よね……」
夏祭りの夜、鳳凰 正人は彼女を組み敷きながら、苦しそうに別の女子生徒の名前を口にしていたらしい。
『ノゾミ』、と…………。
「天音って子、青龍院くんみたいなイケメンと付き合ってるのに、マサトくんを苦しめるようなことしてるんだぁ……。アンナ、気に入らないなぁ〜」
爪には白い歯がギリギリと音を立てて傷をつけていく。
「よしっ、決めた! 天音さんにはちょっと痛い目に遭ってもらお〜っと。うふふっ」
栗木 杏奈は地面に落としたプログラム用紙をぐしゃりと踏みつけた後、軽やかにスキップをしながら体育館の方へと消えていった。