Beast Love
「捨てられた? 私が、トオルくんに?」



壊れた機械のように言われた単語を繰り返すと、彼女は長い髪をかきあげる。


「え? もしかして理解できてないの? って言うか、青龍院くんはぁ、私と付き合ってるんですけどぉ?」


と、トオルくんと栗木さんが、付き合ってる?



「なに、それ……」


なら、私はトオルくんに騙されていたってこと?


……いや、今までトオルくんが私に注いでくれた気持ちは、本物だった。


夕焼けに染まる教室で、告白してくれたこと。


部屋で勉強を教えてくれながら、可愛いなって言ってくれたこと。


文化祭でマサトに嫉妬して、キスをしてくれたこと。


自分を責めながら、恥らないながらそのことを謝ってくれたこと。


花火大会で、私を大切に想っていると話してくれたこと。


全部ぜんぶ、嘘偽りのない行動だった。



「トオルくんと栗木さんが付き合ってるなんて、そんなの嘘だよ。どうしてそんなこと言うの?」


すると、彼女は驚くべきことを口にする。


「あーら? じゃぁ、嘘だって言ったらどうするの? 怒るの? 泣くの? 天音さん、あなたさ…………自分が青龍院くんにしてることの残酷な仕打ちに、無自覚なのね。呆れちゃうわぁ」


「な、なんの話をしているの?」


「天音さんって、トオルくんと付き合っておきながら、鳳凰 正人くんのことも気にかけてるんでしょ? それってさ、トオルくんに失礼だと思わないの? トオルくんが可哀想だとは思わないの? 残酷な女ね、あなた」


「それは、…………」

他者から指摘されて、改めて自分の無知さを思い知った。

< 437 / 548 >

この作品をシェア

pagetop