Beast Love
「俺になんの用事?」
警戒しながら訝しんでいると、均衡を保っていた大きな黒目がうるうると崩れ始める。
「そんなに怖い顔しないで。……ちょっとね、青龍院くんに聞いて欲しい話があるの……」
「ごめん、先に言っておくけど俺、彼女がいるんだ。恋愛系の相談なら聞けないよ」
「違う、違うの……。恋愛系の相談じゃなかったら、私の話……聞いてくれる?」
普通の男子なら、栗木さんの上目遣いと甘えた声に惑わされるところだろうな。
「彼女が悲しむからあんまり話も聞けないかな、ごめん」
すると、周りに行き交う他の生徒たちがいるにも関わらず、栗木さんはアヒル口で涙をポロポロとこぼし始めた。
(……マジで?!)
ひときわ目を惹く栗木さんが泣こうものなら、事情を知らない複数の厳しい視線が俺に突き刺さる。
「……えっ、あそこにいるの栗木さんと青龍院くんじゃない?」
「うわ、栗木さん泣いてる……?」
「え、マジだ。先生呼んできたほうがいいのかなぁ?」
先手を取られ、選択肢がない俺の手を引いたのは他でもない、この状況を作り出した本人だった。
「……青龍院くん、アンナのせいでごめんねぇ。……ひとまずここから離れよ? 駐輪場に行こっか……」
「おい、」
苛立ち気味の俺の制止も聞かず、強引に駐輪場に引っ張る栗木さんは……もう泣いてなんかいなかった。
……俺は、ここで引き返すべきだったんだ。
駐輪場なんかに、行くべきではなかった。