Beast Love
人気のない駐輪場に連れてこられ、とりあえず目の前の彼女がなにを言い出すのかを待ってみる。
(……どこ見てるんだ?)
落ち着かない様子でチラチラとどこかを確認していたかと思いきや、突如として距離を縮められる。
「ちょっ、…………」
予想だにしない展開に、動きが鈍ってしまった。
栗木さんは一切の躊躇いもなく、俺にキスをしようと顔を近づけてきたのだ。
「やめ、……ろって、!」
精いっぱいの抵抗で、唇と唇の間に片手を挟み、一歩後ろに引き下がる。
後方で、複数の生徒が植木の影から走り去る音が聞こえた。
(…………ハメられた、)
罠に嵌められたと気付くには、そう時間はかからなかった。
「あーあ、残念。青龍院くんのキス、奪えなかった〜」
こんなことをしておいて、栗木さんは悪びれることなく、表情ひとつ変えない。
「いったい、何が目的なんだよ……!」
「目的ぃ? そんなの、決まってるじゃない」
相手が男なら、胸ぐらでも掴んでやるのに……。
それすらも出来ず、怒りの滲む拳を固く握り締める。
栗木さんは、冷ややかな意地の悪い微笑みを、口元に浮かべていた。
「幸せそうにしてる奴らが、気にくわないだけよ」