Beast Love
家の中のものを壊す子どものように、とにかく辺りを駆け回る。
「天音さん、どこにいるんだ?!」
何事もありませんように、無事でいますように。
祈るようにひとつひとつ、手当たり次第に人気のない場所を探していく。
こんなに必死になって走ったのは、いつ以来だろうか。
多分、人生で初めてというくらいに俺は焦ってるし、必死になってる。
体育館の靴箱の裏に人影を見つけて、それが天音さんだと分かったとき。
全身の力が抜けていく安心感に包まれた。
見たところ、怪我は無さそうだ。
「天音さん、大丈夫? 誰かに何かされた?」
上の空の彼女の肩を掴んで揺さぶれば、綺麗な瞳から涙がぽろりと、こぼれ落ちた。
「…………ごめんね、トオルくん。約束、守れなくて」
「えっ、どうしたの、急に」
謝罪されることに心当たりのない俺の手を、天音さんは肩から払い落とした。
好きな人からの拒絶反応が、骨身に沁みて心が痛みを覚える。
「付き合う期限は卒業式までだったけど、……ごめん。もう私たち、別れよ……」
「…………なんで、」
やっと絞り出した自分の声は、魂が抜けていてやっと聞き取れるほどの声量だった。
「……もしかして、栗木 杏奈に何かされたのか?」
そうだと頷いて欲しかった、頷いて欲しくて、俺は無意識のうちにそう口を動かしていた。
だが、天音さんから告げられたのは、違う内容で。
「…………トオルくんはさ、マサトの病気のこと……知ってたの……?」