Beast Love
思えば、二人三脚のゴール直前で加速した時も。



──『……やっぱりお前、最高だな』

『へっ?』


儚げに笑ったあと、彼は確かに…………

『トオルと、幸せになれよ』──


ゴールテープを切った瞬間、マサトはそう言った。


あれは、あの言葉の意味は…………。



「ふんっ、二人三脚も見てたけど、あなたがマサトくんにやってることなんて、ただの精神論よね。私なら、孤独なマサトくんを本当に助けてあげることができる。マサトくんが求めている温もりを、”生きている”という体感を与えてあげることができる。ちんちくりんな貴女でも服脱いで擦りよったら、相手してもらえるんじゃない?」


彼のことを知れば知るほど、涙が溢れて止まらない。



ひとりで”死”という恐怖を抱えながら悪に立ち向かい、時には犠牲をも返り見ずにあの人は、いろんな人に手を差し伸べていた。


弱音も吐かず、誰にもその苦しみを打ち明けようともせずに。


「仲の良い友達も、腕の良い医者も、誰にもマサトくんは救えない。救えるとしたら、そう。セフレの私だけよ。だから私、あなたを潰しにきたの。分かったなら、もう金輪際、マサトくんにも近付かないでくれる? じゃぁね、天音さん」


気が済んだ栗木さんの背中が、遠ざかっていく。





「……私は、…………」


涙が流れてしまうこの胸の痛みこそが、トオルくんを傷つける原因そのもので。




痛みの根本にある感情に自我が芽生えてしまえば、もう……私はトオルくんと一緒にいる資格さえ、ないのだ。

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