Beast Love
だから、体育館まで探しに来てくれたトオルくんに別れを告げた。



「…………トオルくんはさ、マサトの病気のこと……知ってたの……?」


「ああ、知ってたよ」


まぁ、それもそうか。


マサトはトオルくんのご両親が働いている病院に通院しているのだから。

ならばなぜ、教えてくれなかったのだろうか。


その疑問は彼の真っ直ぐな答えにより、すぐに解消された。


「俺から話さなかったのは、マサトの病気のことを教えたら、天音さんは絶対にマサトのもとに行くって分かってたから。だから、教えなかったんだよ」


言葉の節々に私への想いが詰まっていて、息が苦しくなった。


この息苦しさは、こんなにも自分に好意を寄せてくれている人を振らないといけないという、罪悪感だ。


体育祭の歓声が、遠くに聞こえる。


「……トオルくんは、こんな時でも真面目なんだね。……知らなかったって、嘘ついてもいいのに……」


「あはは、そうだね。でも、もうそんなことをしても無駄だって分かるから。天音さんを見ていたら、分かるよ。何があったのかは分からないけど、…………マサトへの恋心を、ようやく自覚したんだね……」


できれば自覚して欲しくなかったな、っと彼は寂しそうにこぼした。


「今まで俺と付き合ってくれて、ありがとう。……まぁ、これからは普通のクラスメイトとして……接してくれよな」


トオルくんは最後まで、私のことをよく見ていてくれていた。


「……うん、ごめんなさい。こちらこそ、今まで、ありがとう……」


彼が潔く引き下がったのは、やっぱり……私のことをよく見ていたがゆえなのだろう。

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