Beast Love
***


天音さんに別れを告げられ、俺は意気消沈しながら水道の蛇口を捻り、ほとばしる水の柱を頭からかぶる。


顔からぽたぽたと滴るのはさっき浴びた水道水と、俺の瞳から微かに込み上げてくるなにかで。


(……引き止めても意味ないって顔してたな、天音さん……)


ふるふると頭を左右に小さく振りかぶり、まとわりつく水滴を辺りに飛ばす。


(あーあ。俺、結構がんばったんだけどなぁー……)


行くあてのない感情と細かいガラス屑のような飛沫を、砂利と踏み混ぜていると。


「おーい、トオル」


何も知らないヨウが、近付いて来た。


憂鬱な気分で、片手を上げて返事を返す。


「みんな、人を呼び出したり忙しいのな」


「おん、なんか…………顔が死んどるでトオルくん」


「心も絶賛、死亡中だよ」


「お、おう。せやせや、俺なぁ、トオルに謝りたくて探しとったんや」

関西人というのは、ツッコミにくいボケはとことんスルーするらしい。


「なにを謝るんだよ」


「いや、さっきはマサトのために天音ちゃんと別れてくれなんて俺のエゴを押しつけて、すまんかった。トオルは本気で、天音ちゃんと付き合ってるのに……ほんまにすまん!」



…………ここまで見事に空気を外すヨウを、俺は初めて見た。

と同時に、なぜだか分からないが笑いがこみ上げてきた。
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