Beast Love
「マサト、…………?」

重たい頭を動かし、すれ違った男女を振り返る。


男の方も反射的に首を動かし、背中越しに鋭い眼光を送ってきた。


それは紛れもない、消息不明の暴君で。



「マサトくーん? どうしたの……って、げっ」


マサトの腕に抱きついていたのは、栗木さんだった。


彼女は私を見るなり、露骨に眉をしかめてひどく憂鬱そうな顔をする。


「なんだ、ポチかよ」



あえてなのか、さほど興味なさそうにそれだけ呟くとマサトはこれ以上言葉を交えるのは愚問だといった様子で、踵を返してしまう。


(マサトにいちゃいちゃしようってさっき、栗木さんが言ってた……)


……じゃぁ、ふたりは付き合ってるってこと?



考えれば考えるほど、どん底からこみ上げてくる悲痛な思いがとめどなく波立つ。


ぎゅうっと、胸が締め付けられる。

< 474 / 548 >

この作品をシェア

pagetop