Beast Love
「あっ、待って!」


引き留めようものなら、逞しい腕にしがみついてる栗木さんが、なにも喋るなよっと言った無言の威圧を放ってくる。


「あの、ふたりは、付き合ってるの……?」


その事実を知ったところで、どうなるわけでもないけれど。


でも、聞かずにはいられなかった。



風邪を引いて大きく咳き込んだときに生じる胸元がえぐれるような激しい痛みに、耐える。


きっと私は、いま。


ひどく不細工な面を晒していることだろう。



「お前に関係ねぇだろ。っつか、なに? 反応から察するに、ポチとアンナは知り合いなわけ?」


「そんな女の子、アンナ知らないよ。ねぇ、マサトくん。早く家に行こうよ〜?」


急かす栗木さんに促され、喜びも悲しみも凍り付いてしまったような表情で、マサトが前を向いてしまった。


私は1番気になったことを、去りゆく背中に問いかける。


「……あ、あなたもしかして、タバコ吸ってるの?」


伸ばした手は、空を切る。


マサトが初めて故意に、私を避けたのだ。
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