Beast Love
私の涙を見たマサトは、なにかを掴んだかのように、ハッと息を飲んでいた。


心にさざ波がぶつかったような数秒間の沈黙のあと、栗木さんに詰め寄り始める。



「……なぁ、アンナさ。お前やっぱり、ノゾミに何かしただろ?」


「わ、私はなにもしてない……っ」


「嘘つくなよ。体育祭の翌日、ヨウから”栗木”って女子知ってるか?って連絡来たんだよ。知ってる、って返事かえしたら、ヨウから連絡がなくなった。あいつ、俺や周りの人間を面倒くさいことに巻き込みたくないから、なにも言ってこなかったんだな……。あとな、」


マサトはそこで一呼吸置く。


「お前が俺の部屋で、机に置いてた病院の診断書とか漁ってたのも、バレてっから。ノゾミに病気のこと話したのも、お前だろう? なにが目的なのかは知らねーけど」


栗木さんはブロック塀に追いやられ、逃げ場を失っていた。


髪を振り乱しながら、彼女は感情のままにマサトの足に縋りつく。


「し、診断書を見ちゃったのは、マサトくんのことが心配で……っ。それに私は、彼氏がいるのにマサトくんに気を持たせるようなことをしてるあの子が、許せなかった……っ! だから、マサトくんのために報復してやったのよ?! 私は、マサトくんのために……っ」



しかし、マサトは冷静にそんな栗木さんを見下ろしていた。


誰かを救いたいと願い、文字通り命を削って行動してきた彼だからこそ。


「俺のためにじゃねぇだろ。お前は、'自分が気に食わないから"、行動しただけだろーが」


栗木さんの台詞が、許せなかったのだろう。


「アンナ、もういい。俺に連絡してくるな。今日限りで会うのやめるわ」



他者を貶めた自分の行いにより見放された少女は、泣きながら道の先の住宅街へ消えて行った。
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