Beast Love
そんな俺の葛藤を知ってか知らずか、数秒後に病室は賑やかな声に包まれる。


「マサトー! 生きとるか?!」

制服姿のヨウが、勢いよくカーテンをスライドさせたのだ。


「……ヨウ、病室ではもう少し静かにしろよ」
「マサト、大丈夫か〜」


続いてトオルとアキラが、俺の好きな飲み物や菓子を詰めたコンビニの袋をぶら下げて入ってきた。



「あ、天音ちゃんもおったんかぁ! マサトママと、…………誰のおばあちゃん?」


「私のおばあちゃんだよ」


俺と同じリアクションを見せたヨウは、ノゾミから答えを聞かされると一同を代表して深々とお辞儀をしだす。

「いやはや、ウチのマサトがお世話になりました」


そんな親友の行動に、昔からヤツを知っているおふくろが口元を緩めた。


「ヨウくんは、相変わらずだね」


人口密度が高くなった室内を眺めていたノゾミが突然、思いもよらなかったほどの斬新な着想を得たようで「閃いた!」っと声を上げた。



「マサト、私、あなたを助ける方法を思いついた!」

「はっ? あるわけねぇだろ、方法なんて」


そして恐らく祖母に持って来てもらったであろうパイプ椅子に置いていた通学鞄を手に取り、鼻息荒く病室を出て行く。


「いいからいいから! 絶対、助けて見せるから! 私を信じて、待ってて!」


助ける方法とやらも具体的に教えてもらえずに、呆然とする俺がいた。



孫に置いていかれた祖母は、俺たちに対面するように立ち位置を変える。


「ノゾミは、こっちに越してきた頃は元気がなくて、無理して笑っていました。……でも。今日ようやく分かりました。あの子が、心から笑えるようになった理由が……」


花が茎を曲げるような、たおやかな一礼だった。


「あなたのおかげだったんですね。……ノゾミを救ってくださり、ありがとうございました」



そんな一言を添えて、静かに退室していった。

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