Beast Love
暴君から今日、帰国するという知らせを受け取った私は、空港に向かっていた。
空調のよく効いた、広々とした空間。
まるでなにかの合唱みたいに、キャリーケースを転がす音と、子どもたちが走り回る足音が、あちらこちらから聞こえてくる。
「もう、着いてるはずなんだけど……」
自動ドアは人々を受け入れるために、忙しなく開閉を繰り返す。
搭乗口付近にいる人たちの意識は、今いる場所にはない。
これから空を横断し、向かう場所へと思いを馳せているのだろう。
あるいは、先ほどまでいた地に余韻を引きずり、思いを溶け込ませているに違いない。
「んー、どこにいるんだろ?」
まどろむようなゆったりと響くアナウンスが、説明と案内を復唱している。
ガラス張りの窓から差し込む日光が、眩しい。
ガラスの向こうには客待ちをする幾多もの飛行機が、今か今かとその時を待っているように見えた。